世界のエネルギー情勢と、脱炭素社会実現に向けたＪＥＲＡの挑戦【奥田久栄】

『公研』2023年11月号「公研セミナー」 公研セミナー第720回 おくだ ひさひで：1965年三重県生まれ。88年早稲田大学政治経済学部卒、中部電力入社。JERA取締役常務執行役員、取締役副社長執行役員などを経て、2023年4月より現職。 ＪＥＲＡはどういう会社か 奥田 本日の講演は「世界のエネルギー情勢と、脱炭素社会実現に向けたＪＥＲＡの挑戦」という大それたテーマですが、フランクに話したいと思います。ここにお集まりの皆さんはＪＥＲＡという名前をご存知だと思いますが、まだまだ世間一般には定着していないので、最初に会社の紹介をします。その後に、世界のエネルギー情勢だけではなく、日本も含めた今のエネルギー産業はどんな課題に直面しているのかについてお話しし、最後にそれを踏まえたＪＥＲＡのエネルギー戦略、脱炭素戦略についてお話ししたいと思います。 ＪＥＲＡという名前は、ＪＡＰＡＮ、ＥＮＥＲＧＹ、ＥＲＡの三つを組み合わせてつくった造語です。「日本 （Ｊａｐａｎ）のエネルギー（Ｅｎｅｒｇｙ）を新しい時代（ｅＲＡ）へ」という思いを込めました。小文字（ｊｅｒａ）のロゴ（図１）は、「ｊ」と「ｒ」、「ｅ」と「ａ」は同じ矩形を用い、それらを反転して文字を構築することで、エネルギーがボーダレスに社会へ循環していくさまを表しています。 もともとＪＥＲＡは、東京電力と中部電力の火力発電事業、燃料事業、海外事業を丸ごと切り出して統合してできた会社です。２０１５年４月に会社を設立し、段階的に資産統合を進めて18年５月に国内の火力発電資産を全部統合し、19年４月に本格的にスタートしました。私は15年４月から19年３月までは中部電力側でこの事業統合を進める役割を担っていて、19年４月に中部電力からＪＥＲＡに参りました。 ＪＥＲＡの特徴は、発電事業だけを行うのではなく、燃料をつくる上流の開発、燃料の輸送、燃料を貯める受入基地の構築、国内および海外での発電、つくった電気やガスの卸売りというように、上流から下流まで全部自分たちでマネジメントをしているところです。それから、最適化・トレーディングの部隊もシンガポールにあり、世界を股にかけて天然ガスや石炭のトレーディングをして、数量の調整をする機能を持っていることも大きな特徴の一つです。 このようなバリューチェーンを持っているのですが、規模的には日本の電気の約３割をＪＥＲＡがつくっていて、総資産は約９兆円規模になっています。ＬＮＧの取り扱い規模は年間約３５００万トンで、液化天然ガスのバイヤーとしては世界最大級です。売り上げは約５兆円になります。 ＪＥＲＡは東京電力と中部電力から火力発電事業を統合してできた会社なので、主に首都圏と中部地域を中心に26カ所の火力発電所を持っています。発電容量は６１００万ｋＷ、発電電力量は２３５０億ｋＷｈで日本最大の発電事業者です。ＬＮＧ基地は11カ所持っていて、これらの基地利用を柔軟に采配することによって、効率的にエネルギー（ＬＮＧ）を調達できることも大きな特徴の一つです。 今後も拡がる海外展開 海外事業は、燃料の上流の権益、発電所、トレーディングといったものがあります。燃料の上流の権益としては、アメリカとオーストラリアを中心にＬＮＧをつくるための天然ガスの権益を持っています。火力発電は、北米、アジア、中東を中心に展開しています。それから、最近力を入れているのが再生可能エネルギーで、今アジア地域を中心に展開を開始したところで、アメリカでもかなり速度を上げて展開しています。 繰り返しになりますが、シンガポールにはJERA Global Marketsという燃料のトレーディングをする組織を持っています。これは世界的に見てかなり大規模の石炭、天然ガスのトレーディング事業です。我々はここで、世界中で使われるＬＮＧ、石炭の需給バランスを見ながら、燃料を日本で使わないときには柔軟に世界各地に売っていく、あるいは日本で燃料が足りないときは世界で余っているところから柔軟に持ってくるというビジネスを展開しています。 ＪＥＲＡは、今はあまり評判の良くない火力発電と化石燃料からスタートした会社なのですが、２０１９年４月に本格スタートを切ったときに、「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」という新しいミッションを掲げました。今の世界のエネルギー問題は、脱炭素やウクライナ危機以降のエネルギー安全保障が大きな問題になっているので、これに対して最先端の解決策をきちんと提供できる会社になっていこうという意味です。一方、ビジョンは昨年書き換えていて、「再生可能エネルギーと低炭素火力を組み合わせたクリーンエネルギー供給基盤を提供することにより、アジアを中心とした世界の健全な成長と発展に貢献する」としていますが、これは２０３５年ごろまでに会社として何を優先的にやっていくのかを示したものです。 ここで低炭素火力と言っているのは、石炭から脱却していくこと、それから、今の燃料の中では最も環境に優しいと言われているＬＮＧを使っていくという意味です。さらに将来的には、ＣＯ２を出さない水素系の燃料（水素・アンモニア）に転換していきます。そういう意味を込めて低炭素燃料（ローカーボン・フューエル）火力という言葉を使っています。以上がＪＥＲＡの紹介です。 世界のエネルギー情勢 ここからは、世界および日本のエネルギー情勢についてお話しいたします。ＪＥＲＡが世界のエネルギー情勢をどう見ているかですが、コロナからの回復後、急速にエネルギー需要が伸びるとともに、ヨーロッパで再生可能エネルギーの不具合がありました。エネルギー需要が伸びる中で供給側にトラブルがあったので、脱炭素を進めている状況下でも、化石燃料ニーズは実はウクライナ侵攻前にすでに高まっていたのです。そういう状態の中でロシアのウクライナ侵攻が起きたので、天然ガスや石炭という化石燃料のマーケットは大混乱に陥ったというのが至近２年の状況です。 今のマーケットは少し落ち着いてきているのですが、実は化石燃料の供給量は全く増えていないのです。これは脱炭素の流れと、しばらく化石燃料が安い時代が続いたことで、上流（資源開発）に誰も投資をしてこなかった結果です。そのような状況の中、ロシアのウクライナ侵攻でヨーロッパ勢が一気に化石燃料を買いに走ったことで、需給が不安定な状態が続いています。たまたま今はいろいろな条件が重なって市場が落ち着いているのですが、ちょっとしたトラブルや需要の増加があるだけで、またとてつもない燃料価格の高騰が起こり得る状態です。また、ＬＮＧについてもかなりの争奪戦になっています。もともとＬＮＧは日本や韓国というアジア勢を中心に使われていたのですが、ロシアのガスが来なくなったために、ヨーロッパ勢が突然ＬＮＧをたくさん買うようになりました。この結果、ＬＮＧの奪い合い状態は今も続いています。 ここ５年ぐらいずっと、エネルギー業界では脱炭素の流れがあり、我々も世界でエネルギー事業をやっていくためには、２０５０年脱炭素にチャレンジしないと世界の市場に入れないという状況でした。ただここ２年間を見ると、脱炭素はもちろん大事ですが、エネルギー安全保障が確保されないと話にならないという認識が各国とも強くなっているのが現状です。 そうした中、化石燃料は西側諸国だけではなくロシアや中国も重要なプレイヤーですが、今まさに世界が分断されつつあり、化石燃料の需給安定において非常に厳しい環境が来ています。ロシアや中国、それらに準ずる権威主義体制の国にもたくさんのエネルギー資源があるわけです。こういった国のエネルギー資源を使わずに需給バランスを保てるかどうかは非常にチャレンジングな問題で、今後真剣に考えていく必要があります。 ＬＮＧ価格は落ち着くも、予断は許さず 原油・ＬＮＧ価格の推移（図２）を見ていきます。ＴＴＦはヨーロッパの天然ガス、ＪＫＭは日本のＬＮＧで、それぞれスポット価格──長期契約ではなくその都度買う価格──の推移を示しています。これらを見ると、２０２２年２月のウクライナ侵攻で、ヨーロッパの天然ガスも日本向けのＬＮＧもスポット価格が跳ね上がっているのですが、それ以前からけっこう高いことがわかります。主電源を再生可能エネルギーに変えていく方針で洋上風力の開発をしきりに進めてきたヨーロッパ勢は、しばらくはそれで安定供給ができていたのですが、２０２１年の夏が終わった頃から風向きが変わってしまい、洋上風力の風車が回らない状況がかなり長い期間続きました。そのときにヨーロッパ勢が急遽ＬＮＧを買いに走った結果、ウクライナ侵攻以前の高い山ができたわけです。ＬＮＧはオーダーメイド型の商品ですので、余分な生産はほとんどしていません。必要量だけしか生産していないところに、洋上風力が回らないということでヨーロッパ勢が買いに来たから、そこで価格が跳ね上がった。この頃からすでに市場の不安定化は始まっていたわけです。 そのように不安定で大変な状態のときに、追い打ちをかけるようにロシアのウクライナ侵攻が起こりました。欧州向けパイプラインのロシアのガスが止まるかもしれないということで価格が高騰し、その後も昨年１年間はずっと高い状況が続きました。今は落ち着いていて、ウクライナ侵攻以前よりも値段は下がっていますが、これには惑星直列的な幸運が重なっています。まず一つ目は、昨年のヨーロッパの冬が11月、12月に気温が20℃以上あるという暖冬で、普段よりも10℃から15℃ぐらい気温が高い状態が続いたので、ガスを使わなかったことです。二つ目は、通常だと毎年冬に大量にＬＮＧを買う中国が、昨年は景気が悪くてＬＮＧを買いに来なかったことです。三つ目は、日本も暖冬だったことです。この三つが重なることは我々も想定外でした。常に危機に備えてＬＮＧの在庫を注視し、緊急調達もしているのですが、昨冬はそれが全く必要ないぐらいでした。昨冬に市場が緩んだ状態が今も続いているというのが現状です。 ただ、ファンダメンタル（基礎的な条件）は全く変わっておらず、供給量が一切増えていない中で、ヨーロッパ勢という新しいＬＮＧ需要が生まれたという状況は何も変わっていません。今年の冬は普通の寒さになって、仮にどこかのＬＮＧ生産でちょっとしたトラブルが起きたとすると、また急に値段が跳ね上がる状態に戻ると我々は見ています。 世界の電力需要（図３）を見ていきます。ほとんど電力需要が伸びていない日本にいると、世界でも需要は伸びていないのではないかと思うかもしれませんが、世界の需要はまだまだ伸びている状況です。世界全体の電力需要は、２０２０年に対して２０５０年はだいたい倍ぐらいになる予想です。どこが伸びているかと言うと、アジア太平洋地域です。電力需要はアジア地域を中心に爆発的に伸び、これからはＣＯ２を排出するのはほとんどがアジアになるというのがエネルギー市場の現実です。先進国は電力需要が伸びていないので新しい発電所をつくる必要がなく、今までつくった発電所を再エネに置き換えていけば脱炭素を段階的に図ることができるので、脱炭素がしやすいと言えます。 ところが、途上国の電力需要はこれからすごく伸びていくので、この伸びに対して再生可能エネルギーで全部賄うというのは現実的ではありません。再生可能エネルギーと火力発電・原子力発電との最大の違いは、エネルギー密度です。発電所１基あたり電力量が再生可能エネルギーは非常に小さいため、ものすごく広範囲に開発しなければならず、成長している最中の国では再生可能エネルギーだけではなかなか需要に追いつけないわけです。これが、すでに成長していない先進国とこれからまだまだ伸びていく途上国が、脱炭素問題で折り合わない最大のポイントです。アジアで脱炭素・安定供給・経済性の三つをどうやって両立させていくのかが、世界のエネルギー問題の中心だと言っても過言ではありません。これから我々がチャレンジしなければいけない問題だと思います。 実は、アジアでは石炭火力の比率が一番高いのですが、これは当たり前で、石炭火力が一番安く、大規模につくりやすいからです。経済成長していく中でこれをフル活用してきたので、アジアで50％超を占める石炭火力発電所は、できたばかりでピカピカのものがたくさんあります。もちろん先進国にも石炭火力発電所はあり、日本にもまだ20─30％はあるのですが、もう老朽化してきていて、建て替えの時期を迎えたときに脱炭素のものに建て替えることができます。問題は、脱炭素ブームが来る前にできたアジアのたくさんの新しい石炭火力発電所を、どうやって脱炭素のものにしていくかです。いきなり「明日から使用禁止です」「まだ新しい石炭火力発電所ですが廃止して違う発電所をつくってください」というのは絶対に受け入れられません。具体的で現実的なソリューションをきちんと提示できるプレイヤーが必要になるので、ＪＥＲＡがその役割を果たしたいと考えています。 ＬＮＧ必要数量の幅を埋めるには？ 次に、日本国内の安定供給に向けた取り組みについてお話しします。日本の最大の悩みは、ＬＮＧ調達の必要数量が季節によって大きく変わってしまうことです。やはり電力がたくさん要るのは夏と冬ですが、ＬＮＧのだいたい７割から８割は長期契約を結んで買うので、年間に均等にしか来ません。生産側も、ＬＮＧプラントの生産を開始すると途中で止められないので、一定量をいつも買ってくれないと困るのですが、日本の需要は夏と冬に偏っている。この問題は以前からありましたが、再生可能エネルギーが普及してきたことで、需要期と閑散期の差がますます大きくなってきています。再生可能エネルギーは、夏の晴れているときは太陽光が強く発電量が多いのですが、雨が降った瞬間に発電しなくなるわけです。この再エネ発電の変動とＬＮＧの数量変動に対応することが、実はとても難しいのです。 ではどうやってこの数量を合わせるか。ＬＮＧを貯めておくことができればいいのですが、ＬＮＧはすぐに体積の大きいガスに変わりタンクに入りきらなくなってしまうので、貯めておくことができません。そうすると、何とかしてリアルタイムで数量を合わせていかなければいけない。この変動の波に合わせようとすると、買い過ぎた分は誰かに売って、足りない分は余っているところから引っ張って来る必要があります。 スポット取引を柔軟に行い数量変動に対応することへのニーズは、再生可能エネルギーが増えれば増えるほど高まっていきます。これに対応するのはすごく大変なのですが、シンガポールにトレーディングの拠点を置くことで、世界中のＬＮＧを見回して余っているところから足りないところへ流し込む機能を持ちました。それによって、今はこの需給問題にかなり対応できるようになっています。ただ、これからどんどん再エネが普及していくとますますこの変動幅が大きくなるので、これからどう対応していくかというのが大きな課題です。 シンガポールのトレーディングでは、アジアと北米とヨーロッパの市場を全部見て、少しでも余っているところがあれば足りないところへ玉（ＬＮＧ）を流し込むということを行っています。これは、うまくやることで結果として燃料の調達コストを下げることもできるので、この調整の成否で経済的に受け入れられるレベルの電気料金に抑えられるかどうかが決まってくるという構造です。 古い発電所のリプレースで電源確保に貢献 日本のもう一つの問題が、電源確保です。電力は自由化されましたが、自由化をすると、昔の地域独占時代の電力とは違って、発電所をつくるときに事業性があるかどうかをシビアに判断していくという行動をとります。ちょうど今、高度経済成長期につくった古い発電所が老朽化して使えなくなってきていて、このタイミングでコロナから回復して電力需要が伸びたので、電源が足りないという事態に陥っています。 この問題に対してＪＥＲＡは、古い発電所の廃止と同時に、リプレースして新しくつくるということを行っています。ただ、廃止と同じタイミングでのリプレースはなかなか難しいので、だいたい２０２２年ぐらいまでに廃止して、21年から24年にかけてリプレースするというスケジュールです。ちょうど今は新陳代謝の端境期で少しご迷惑をおかけしている状況ですが、リプレースは順調に進んでいますので、24年度以降には電源不足で皆さんにご迷惑をおかけすることはほとんどなくなるのではないかと期待しています。 ただ、燃料については、まだ市場環境も不安定ですので、不安が残る状況は続くと見ています。繰り返しになりますが、昨年は本当に偶然が重なったことで救われましたが、今年については不安視している状況です。 ヨーロッパの需要は今のところ大きく伸びていないので、ガスの価格も下がってきています。そうすると何が起こるかと言うと、ガス価格が高いときは採算が合わないため止まっていた、ガスを使うケミカル（化学）系のプラントが動き出してきます。その動きが冬と重なるとヨーロッパの需要は増えてしまいます。暖冬ではなくなり暖房用の需要が昨年より増えることに加え、生産活動が再開することでも需要が増えそうという情勢です。一方、中国は最近経済状態がさらに悪化している向きがあるので、ＬＮＧ需要が増えるかどうかはわからない状況です。 ＬＮＧは供給者が限られるので、生産プラントで不調が起きると供給が危ない状況になります。実は最近、プラントが老朽化していることもあって、生産不調は非常に増えています。そういう状況もあり、今年はまだまだ予断を許さない状況だと見ています。 ＪＥＲＡの脱炭素戦略 以上を踏まえて、ＪＥＲＡが脱炭素をどう進めていくかについて紹介します。まず現実を申し上げますと、日本で一番ＣＯ２を排出しているのは火力発電で、日本のＣＯ２排出量の約４割になります。ＪＥＲＡは、先ほど申し上げた通り日本の約３割の電気を発電しており、ＣＯ２排出量は約10％です。約10％も出しているので、当然我々には率先して脱炭素に取り組んでいく責務があります。 ２０２０年に「ＪＥＲＡゼロエミッション２０５０」という脱炭素戦略を発表しました。２０５０年のＣＯ２ゼロエミッションに挑戦することを宣言したわけですが、宣言するだけなら誰でもできます。我々が持つユニークな特徴としては、その目標に向かう道筋として三つのアプローチを宣言したことです。 まず、再生可能エネルギーと火力のゼロエミッション化を組み合わせるかたちで相互補完すること、これが脱炭素に向けた一つ目のアプローチです。今では当たり前になっていますが、２０２０年当時、日本だけでなく世界中の電力会社が再エネ１００％にして脱炭素をめざすと言っていました。しかし我々ＪＥＲＡは、火力のゼロエミッション化と組み合わせたほうが、どの国でも無理なく脱炭素と安定供給を両立できると考えました。 二つ目のアプローチは、国や地域ごとに最適なロードマップをつくり、それぞれの処方箋を策定して脱炭素を進めていくというものです。これは、資源がある国とない国の違いはもちろん、経済成長が高い国と成熟した国、地理的な条件で太陽光を導入しやすい国と風力を入れやすい国、いずれも導入しにくい国など、エネルギー事情は国によって全く異なるからです。それから、社会インフラの面でも、国境をまたいで送電線やガスパイプラインを通せるポジションにある国とそれができない国では状況は異なります。したがって、脱炭素と安定供給を両立させるための 道筋は、国によって違って当たり前です。電源の組み合わせ方、再生可能エネルギーにおけるゼロエミッション火力の組み合わせ方や比率は、国ごとに最適化しないと脱炭素と安定供給は両立できないというのが我々のメッセージです。 三つ目のアプローチは、スマート・トランジションの活用で、これは今できることからやっていくという意味です。将来的に技術革新が起こったら取り組むと宣言されているプレイヤーはエネルギー業界でも多いのですが、そうではなく現時点の最善技術を使って、まずはできるところまで取り組もうという試みです。５年、10年するとまた新しい技術が出てくるので、今度はその新しい技術を使ってまたできるところまで取り組むという具合に段階的に取り組んでいくほうが、ずっと現実的ではないかと考えます。 哲学的な理想だけではなく、実際にこの三つのアプローチに従って日本で何に取り組むのかを示したロードマップも同時に発表しました。それが、「ＪＥＲＡゼロエミッション２０５０」日本版ロードマップ（図４）です。再生可能エネルギーと火力のゼロエミッション化を組み合わせるのですが、問題は火力のゼロエミッション化をどのように実現するかです。まず非効率な石炭火力については２０３０年までに全て停・廃止し、残った高効率の石炭火力は燃料を石炭からアンモニアに切り替えていきます。これを宣言したのは世界初のことでした。２０３０年ごろまでに20％、30年を回ったころに50％、石炭からアンモニアに切り替えて、最後は１００％アンモニアで発電できるという状況まで持っていきます。石炭火力は主に大きなボイラーを持った発電所で使われているのですが、このボイラー型の発電所とアンモニア燃焼は非常に相性が良いことが我々の技術開発チームによってわかってきました。その知見を使って、石炭火力からアンモニアに切り替えていくつもりです。 水素については、ＬＮＧ火力のガス燃料を水素に切り替えていきます。スタートは10％ぐらいで、そこから段階的に切り替えていき、最後は１００％水素で賄える発電所にしていきます。つまり、今ある発電設備をそのまま使いながら、燃料を段階的にアンモニアや水素に切り替えることで、安定供給と経済性をきちんと維持しながら脱炭素化を図っていく。これが我々の考える火力のゼロエミッション化です。再生可能エネルギーも洋上風力を中心にフルスロットルでやっていくので、日本の場合はそれらを組み合わせて脱炭素をめざすのが一番いいのではないかという提案をさせていただいています。 洋上風力を中心に進める再エネ開発 ここからは「ＪＥＲＡゼロエミッション２０５０」の一つ目の柱、再生可能エネルギーの開発についてご紹介します。いま我々は洋上風力を中心に展開しており、２０２５年までに日本だけではなく世界全体で５ＧＷ（ギガワット）の再生可能エネルギーを開発する目標を立てています。２０１９年度は１・１ＧＷぐらいだったのでそれを５倍にする目標ですが、２０２３年８月時点で３・２ＧＷと、開発は順調に進んでいます。図５は世界で取り組んでいる再生可能エネルギー開発の一覧です。 残念ながら、日本にはＪＥＲＡの洋上風力はまだありません。一番大きいのは台湾で、最近運転を開始したところです。台湾での洋上風力開発とヨーロッパでの開発には大きな違いがあり、台湾での開発には相当苦労しました。ヨーロッパの海は基本的に遠浅の海で、風はいつも一定方向から緩やかに吹き続けていますが、台湾の状況は日本に似ており、沖に進めばすぐに海が深くなり、風向きは季節によって大きく変わり、台風も来るという状況です。アジアとヨーロッパでは全くモデルが違うのです。 台湾での洋上風力開発を踏まえ、世界標準的な洋上風力を開発できる力を持つ企業を早く手に入れ、標準的な問題を全て解けるようにしてから、地域ごとの応用問題を解けるようにしようという戦略を考えました。まず標準的な問題を解けるようにするために、欧州で洋上風力をたくさん手がけてきたベルギー最大の洋上風力発電事業者であるParkwind社を今年買収しました。友好的な買収で、彼らも我々と一緒になることで世界展開ができると喜んでいただいています。 これでヨーロッパの開発はカバーできるのですが、北米や日本を含めたアジアというローカルな開発はカバーしきれないので、ローカルな開発はローカルなプレイヤーと組んでいこうと考えています。まずマザーマーケットである日本では、ＧＰＩ社をＮＴＴアノードエナジーさんと一緒に買収しました。このＧＰＩ社は、北海道石狩での洋上風力開発を終え運転を始めている状況で、すでに開発ノウハウを持っており、日本のローカル事情もとてもよく把握しています。このように、標準問題を解く力と応用問題を解く力を組み合わせることによって、効率的かつ安全に洋上風力の開発ができる体制にしています。 これらの会社を買収したことで、ＪＥＲＡの洋上再生可能エネルギーの容量は一気に３・２ＧＷに上がりました。ＪＥＲＡがアジアのプレイヤーの中でどのぐらいのポジションにいるかを示したのが図６です。まだ、やっと大規模事業者の仲間入りをしたというレベルですが、今後はこのポジションを利用しながら、アジアを中心に欧米やアフリカでも再生可能エネルギーをさらに拡大していきたいと思っています。 また、太陽光発電では、これから日本ではフィルム型ペロブスカイト太陽電池（塗布や印刷技術で量産でき歪みに強く軽い太陽電池）が普及するだろうと見ているので、いま積水化学工業さんと一緒に実証試験を進めています。 自動車用蓄電池を電力用に活用 先ほど、発電用燃料を水素やアンモニアに切り替えていくというお話をしましたが、水素やアンモニアをつくる方法には、天然ガスからつくる方法と、再生可能エネルギーを使って水を電気分解して水素やアンモニアをつくるという二つの方法があります。より環境に優しいのは後者です。これをグリーン水素、グリーンアンモニアと言うのですが、それをつくるためのエネルギー源として、大規模な太陽光や洋上風力を世界で開発していきたいと思っています。それらの開発がしやすい場所は、中東や北アフリカ、アメリカ、オセアニアになります。 また、今かなり力を入れているのが蓄電池のリサイクル・リユースで、トヨタさんと一緒にビジネスを始めようとしています。自動車用リチウムイオン電池はどんどん普及が進んでいますが、まだ値段が高いというのが現状です。レアアース、レアメタルの供給の問題もあり、ますます値段が上がっていく傾向にあります。同じく電力用蓄電池を手に入れるのも難しくなっていく状況の中で、自動車用に使った電池を電力用の電池として使えないかということを考えていく必要があります。 そこで、トヨタさんと組んで、ＥＶやハイブリッド車で使い終わったバッテリーや、ＥＶ用につくったバッテリーの不良品（容量不足等）などを集めて、電力系統に繋いで使えないかという実証試験と技術開発を行いました。これらをビジネスで使う上で難しかったのが、使い終わったバッテリーや不良品のバッテリーの品質がそれぞれ異なることです。ただ、両社で技術開発を進めた結果、品質がバラバラのバッテリーでもきちんと安定した電気を生み出せるシステムをようやくつくることができました。昨年、四日市の発電所から実際に系統に繋ぐ実験をしましたが、問題なく事業で使えることが検証できました。このシステムはこれから日本で展開をしていきたいと思っています。 ＣＯ２の出ない火をつくる 最後に、「ＪＥＲＡゼロエミッション２０５０」の二つ目の柱、ゼロエミッション火力の話をしていきたいと思います。水素は燃やしても水しか出ませんし、アンモニアは水と窒素しか出ません。ＣＯ２を出さないという意味で、再生可能エネルギーは素晴らしい発電ですが、自然条件によって出力が変動してしまうという問題があり、何かでカバーする必要があります。実は、送電線を増強したり、バッテリーを多く設置したりすることで解決できる国もありますが、日本の場合は難しいので、火力発電で出力変動を吸収することで安定供給に繋げています。火力発電所のデメリットは何といってもＣＯ２を排出することですが、燃料を切り替えてゼロエミッション化することで解決したいと考えています。 石炭火力の燃料は石炭からアンモニアに切り替えていきますが、技術開発は順調に進んでおり、アンモニア20％に切り替える最後の実証試験を、２０２３年度末に愛知県碧南市の碧南火力発電所で開始する予定です。実証試験では、ボイラーの中にある48本のバーナー全てをアンモニア燃焼用のバーナーに取り替えて、実際に燃やします。アンモニアやアンモニアタンクをつくる時間が多少かかりますが、20年代後半には絶えず20％で燃やせる状態に入っていくと考えます。 メーカーさんの協力を得て、アンモニアを50％以上切り替える技術も並行して開発を進めている状況です。こちらも順調に開発が進んでいる状態です。28年度までに試験を実施して、２０３０年代前半の商用運転をめざします。 並行して、アンモニア専焼に向けたボイラーやガスタービンの開発にも着手していきます。発電所の建て替え時期（２０４０年代）に合わせて切り替えていくので、２０５０年までには火力で１００％ゼロエミッション化を進めていきたいと思います。 水素も、２０２７年、28年ごろに、日本で実機を使ってガスの一部を水素に切り替えて燃やし始めます。水素の場合、運ぶのが難しいという問題があるので、輸送の技術開発が成熟するのを待って、商用運転開始は30年代半ばになる予定です。それ以降は段階的に水素の比率を上げていくことができるのではないかと考えています。 既存の発電設備・送電線をそのまま活用可能 水素・アンモニア発電のいいところは、既存の発電設備がほとんどそのまま使えることです。図７は、ボイラー型火力（石炭火力）におけるアンモニア発電の例ですが、アミで囲んだところだけを改造すれば、あとはそのままでアンモニアを燃やせるようになります。具体的に言うと、アンモニアタンカーの受入設備、アンモニアを貯蔵するタンク、それを気化する設備や配管、ボイラー内のバーナーはアンモニア燃焼用に取り替える必要がありますが、あとは一切手をつけずにアンモニア燃焼用の発電所に生まれ変わらせることができるので、経済的で効率的です。 さらに、送電線建て替えの必要もありません。再エネ発電所を新しくつくった場合、送電線の問題は必ず出てきますし、日本で送電線を新しくつくるのには膨大な時間とコストがかかりますが、それが必要ないというのもポイントです。 図８は、ガスタービン型火力（ＬＮＧ火力）で水素を燃やす例ですが、ほとんどアンモニアの場合と同じです。燃焼器のところと受入設備、配管をつくれば、ガスと同じように水素を燃やせるようになるということです。アンモニア同様、設備改造が小さくて済むところが大きなメリットです。 いい話ばかりだと思うかもしれませんが、大変なのはアンモニアや水素をつくるところです。発電所に使う水素・アンモニアの量は、あまりにも膨大なのです。アンモニアを例にとると、碧南火力発電所４号機の燃料を熱量比で20％アンモニアに転換しようとしていますが、年間50万トンのアンモニアが必要になります。これは、肥料の製造や化学プラントなどで使う、日本のアンモニア全消費量とちょうど半分の量です。 我々は碧南火力発電所４号機だけでなく、他の発電設備の切り替え率も20％から50％以上に上げていこうとしているので、さらに膨大な量が必要になってくるわけです。多すぎて今のアンモニアのマーケットからは買えないので、燃料のためのアンモニアを自らつくらないと発電所では使えないということになります。 天然ガスや再エネからアンモニアや水素をつくる方法はいろいろありますが、まず水素をつくってそこからアンモニアをつくる場合には、アンモニア合成をしたものを貯蔵し、海上輸送で日本に持ってきます。この全体のプロセスに我々も参画をしていて、今は製造・輸送の準備に入っているところです。かなり大きな投資ですが、リスクテイクをしながらやっています。 サプライチェーン構築のカギは国内外での連携 水素やアンモニアをつくるというときに重要なことは、これだけ大規模なサプライチェーンに、一社で投資し一社で全リスクを負っていたら会社が潰れてしまうので、みんなで参画して安定したサプライチェーンを構築していくということです。水素やアンモニアの安定確保のためには、世界中で、アンモニアや水素をつくる側、使う側の仲間を増やしていきながら、みんなでサプライチェーンをつくっていくという動きにしていく必要があると思っています。 アンモニアや水素を使う側については、アジアを中心に増やしていきたいと思っています。やはり、アジアの脱炭素が進まないと世界の脱炭素は進みません。さらに、アジアには石炭火力がある国がたくさんあります。まずはここに手をつけようということで、我々はバングラデシュ、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポール、インドネシアの大手エネルギー会社などに経営参画したり、協業したりしています。 その中でも、バングラデシュ、インドネシア、フィリピンでは一緒に脱炭素のロードマップをつくっています。まずはＬＮＧの導入から入るのですが、次のステップとして石炭火力でアンモニアを燃やしていくというオプションもロードマップに入れて、一緒に進めていく検討を開始しています。ＩＨＩさん、三菱重工さんと一緒にマレーシア、シンガポールでアンモニアを燃やす発電をつくる検討を始めています。こうした取り組みで、アンモニアを燃やす仲間をつくっているところです。 もちろん日本でも仲間を増やしていく努力をしています。日本の電力会社さん、出光興産さんと一緒に水素やアンモニアをつくって使っていこうという動きをいま広げているところです。 水素・アンモニアの製造では、まずアンモニア製造の二大メーカーであるヤラ・インターナショナル（ノルウェー）、ＣＦインダストリーズ・ホールディングス（アメリカ）と組み、一緒にアンモニアを製造するプロジェクトを北米で進めています。アンモニアの需要に非常に興味を持っていただいており、世界の企業40社以上から提案があったのですが、その中から絞ってこの２社に決めました。それからドイツのUniper社とも組んでいて、ドイツ向けのアンモニアを北米でもつくっていこうという取り組みも併せて行っています。このように、つくる側の仲間づくりも始めています。 それから、製造したアンモニアは、大きな船を使って効率よく運ぶことが必要です。今までにない大型アンモニア船をつくるために、日本郵船さん、商船三井さんと一緒に、どういう船でどういう船団を組んでいけば効率的に輸送できるかという検討を始めており、燃料アンモニア輸送・受入体制の仲間づくりも進めています。とにかく仲間を募ることで太いサプライチェーンをつくっていく。そうすることによって安定性・柔軟性が上がり、アンモニアが発電用燃料として使いやすくなると思っています。 水素を燃やす話は国内ではまだできていませんが、実はアメリカでは先行して燃やし始めています。ニューヨークの郊外で事業を手掛けているリンデンガス火力発電所の横に石油精製事業者がいるのですが、ここで出てきた水素を含む副生ガスをリンデンガス火力発電所に送って、燃やし始めています。全く問題なく燃えており、水素燃焼についてもアメリカで技術開発が終わっている状況です。水素は運ぶのが大変ですが、日本に運んで来られるようになったら、この技術を使って日本でも一気に展開ができると思っています。 ◆意見交換 グリーンエネルギーとブルーエネルギー、どちらが先行するか？ 太田（昌） 私どもの会社でも需要側のカーボンニュートラルの取り組みを行っているので、供給側についてはＪＥＲＡさんの取り組みに非常に期待しているところです。 本日は脱炭素についてお話いただきました。水素やアンモニアを使っていく上で、再生可能エネルギー由来のグリーン、化石燃料由来のブルーというお話がありましたが、今後はグリーンとブルーではどちらが先行していくのでしょうか。ご知見等ございましたらお教えいただければと思います。 最初はブルー、徐々にグリーン 奥田 結論から申し上げますと、まずはやはりブルーが先行すると思います。今の技術レベルを前提にすると、まだブルーのほうが安い。したがって、天然ガスを使って水素をつくり、そこからアンモニアにする、あるいは水素のまま使うなどして、我々も最初はブルーから取り組んでいく予定です。その水素をつくる製造過程で、どうしても多少はＣＯ２が出るので、地中に埋めるＣＣＳを使って脱炭素を図るという方針で行っていきます。 また、並行してグリーンのプロジェクトも検討を進めています。ただ、今の試算では電気分解する際の効率をもう少し改善しないと、ブルーには匹敵しない。だいたい15％ぐらいの効率改善ができれば、グリーンの取り組みも現実的になると思います。 一方で、たとえば太陽光パネルなどのコストはどんどん下がっていくと推測されるので、それらとの相乗効果で考えると、10年後、20年後にはブルーとグリーンが入れ替わるタイミングが来るのではないかと予想しています。ですから、基本的にはブルーとグリーンを並行して開発していくという方針ですが、最初はブルーが多く、徐々にグリーンに置き換わっていくイメージになると思います。 水素事業の見通しは？ 吉野 質問が３点ございます。まず１点目。私どもＪＦＥスチールも、ＪＥＲＡさんほどではないですが年間５０００万トン弱のＣＯ２を排出しているので、カーボンニュートラルに向けて課題山積という状況です。我が社でも、これから水素やアンモニアをどう使っていくかさまざまな検討をしているところですが、アンモニアに比べて水素の製造は進んでいないのでしょうか。輸送や貯蔵の難しさもあると思うのですが、水素事業について今後の見通しをお伺いできればと思います。 ２点目は、当面は長期低炭素オークションなど政策的な支援を受けながら脱炭素を進めていくことになると思うのですが、将来的に政策の厚みが薄れていったときに、その分はコストの低減でカバーできるのか、それとも長期的に発電コストが上がっていくことになるのか、お考えをお聞かせいただければと思います。高炉から電炉に変えていくとなるとやはり電力消費が増えるので、将来的にアンモニア混焼から専焼になっていくと、長期的には電力コストは上がっていくと見込んだほうが良いのでしょうか。 最後３点目ですが、我が社ではＣＣＳも視野に入れなければいけないということで検討を進めているところですが、本日のお話には出てこなかったため、ＣＣＳについてのお考えをお聞かせいただければと思います。 海外を中心に水素製造事業に投資を進める 奥田 まず、水素事業の見通しについて。私の説明も舌足らずだったのですが、ＪＥＲＡはアンモニアも水素もどちらの製造にも関わっていきます。どのみち最初に水素をつくらなければアンモニアもできないので、発電には大量の水素が必要になるという意味でも、水素製造にも力点を置いて取り組んでいきます。 ただ、発電で使う水素の量はあまりにも膨大なので、残念ながら国内の製造量ではとても賄えないと思います。したがって、海外を中心に水素製造事業に投資をしていくつもりです。一番悩ましいのが輸送技術ですが、すでに他のプレイヤーさんがたくさん開発されていますので、輸送に関しては基本的には他社の動向を注視し、しかるべきタイミングで参入していきたいと思っています。 水素の輸送方法には、液体水素で輸送する、トルエンに混ぜて輸送する、アンモニアで輸送し国内で分解する、という三つの方法があります。どの方法が一番いいのかを考えるときには、コストの問題だけではなく、水素の品質も考える必要があります。液体水素は１００％ピュアな水素ですが、トルエンに混ぜた輸送はトルエンの成分が、アンモニアでの輸送はＮ分が、一部残ります。それらを発電所で焚いたときに一番相性がいいのはどれか。２０２０年代後半に、三つ全ての方法で検証して決めていきたいと思っています。 ２点目の政府支援がなくなった後の電源コストについてですが、残念ながら、ゼロエミッション火力の価格を今の石炭価格と全く同じにすることは難しいです。当然ゼロエミッション火力にはＣＯ２を排出しないというプレミアムが付いているので、その分は何らかのかたちで価格に転嫁していくことが必要ですし、ゼロカーボンは無料ではないというのが前提になっていくと思います。 ただ、電気の売り方は変えていきたいと思います。現状、電気はｋＷというアンペア計と、ｋＷｈという使用量ではかり売りをしていますが、電気の価値をもっと細分化したい。たとえば、再生可能エネルギーでつくった電気には環境価値は付いているが、いつ発電できるかは相手任せなので柔軟性はない。ゼロエミッション火力でつくった電気には環境価値も、柔軟性も安定性もある。そのような価値を持つ電気として売っていくために、デジタル技術を使って価値を細分化、値付けをしてマーケットに出していきたいと思っています。そして、お客さんのほうでそれらの電気を組み合わせていただき、結果として一番ニーズに合致する電気に仕上げていただく。このような姿をめざして社会に定着させていくのが良いのではないかという仮説を持っています。ただ、うまくいくかどうかは実際に始めてみないとわからないので、今後も試行錯誤しながら将来像を決めていきたいと思います。 ３点目のＣＣＳについてですが、これは我々も積極的に取り組んでいます。ブルー水素・アンモニアをつくる際には現地でＣＣＳを実施しているので、ＣＣＳ技術はブルー水素・アンモニア製造におけるコア技術と言えます。また、今後はＪＥＲＡが発電所で排出したＣＯ２を回収して、海外のＣＣＳができる場所で固定化することも視野に入れて検討を進めています。 リプレースは安定供給と利益、どちらを重視？ 山﨑 我々地方電力から見ると、スケール感やスピード感が全く違い非常に刺激になりましたし、ある意味羨ましくも感じました。ＪＥＲＡさんは福島の原発事故をきっかけとして、紆余曲折はあれど関係者の皆さんの思いや思惑もあり、２０１９年に既存火力を統合されたと理解していますが、電力会社から燃料や火力部門を切り出してこれだけ大きな統合をするのは、非常にチャレンジングで、本当にエネルギーの要ることだろうなと思っています。 奥田社長は構想段階からＪＥＲＡの設立に関わってこられたと思いますが、設立当時に描いていたＪＥＲＡの将来像やあるべき姿と、現在のＪＥＲＡを比べたときに、その想定範囲内で動いているのか、より成長しているのか、あるいはその逆なのか、現時点での評価をお伺いしたいと思います。 もう一点、老朽火力の廃止を進める一方でリプレースの計画もあり、足元の電力需給は厳しいものの、いずれバランスしてくるとご説明いただきましたが、リプレースの計画を立てられる際には、エリアや全国の需給バランスを見ながら必要量を決められているのか、あるいはマーケットの価格動向を見ながら利益重視で決められているのか。端的に言うと、安定供給と利益重視のどちらにウエイトがあるのか、差し支えなければ教えていただければと思います。 どちらも重要な検討材料 奥田 たいへん難しい質問をいただきました。まずＪＥＲＡの評価についてですが、設立当初と今の経営環境は相当違うというのが正直なところです。私がＪＥＲＡをつくろうと思った当時は、中国との資源の獲得競争が相当熾烈になってきていたにもかかわらず、日本の電力会社は国内で最適なモデルなので、グローバルな競争に耐え得るようなカルチャーができていなかった。ここは、グローバルな競争に勝ってから国内でも頑張るという二段階のモデルにしたほうがいいのではないかと思い、ＪＥＲＡの構想を立て始めました。 今も資源の獲得競争はどんどん厳しくなっているので、その点では経営環境はまだ変わっていないのですが、プラスアルファで加わってきた脱炭素の動きが、我々の想定をはるかに上回るスピードで、世界的な大きな波になって押し寄せてきました。設立当初は「ＪＥＲＡゼロエミッション２０５０」や火力のゼロエミッション化など考えてもいませんでしたが、脱炭素が最大の課題になってきたため慌てて構想を練ったというのが正直なところです。さらに今度はウクライナ危機が起こりましたので、エネルギー安全保障の観点からも再度戦略を練り直さなければならない状況で、経営環境は激変しています。 ただ、これまでのＪＥＲＡを振り返ってみて良かった点は、やはり国内で解決すべきもの、海外で解決すべきものという二つの問題を一つの経営体で解決するのは難しいと思うので、水素やアンモニアの世界的なサプライチェーンをつくろうとか、それを使って日本でもゼロエミッションができるとか、そういうグローバルな議論が、グローバルレベルの問題に特化したＪＥＲＡができて初めてできるようになった点です。これは一電力会社だけでは難しかったのではないかと思います。 また、これまでの経営パフォーマンスを数字の面から見ても、利益やキャッシュフローが当初描いていたよりもはるかにパフォーマンスが良いという点で、手前味噌ですが何とか合格点がいただけるのではないかと採点しております。ただ、私はまだ社長になったばかりなので、これは前社長の成果なのではないかという意味で、まだまだこれから厳しく評価をいただく立場であると思っています。 それからリプレース計画時の検討材料についてです。結論から言うと、安定供給と利益の両方を見ています。もちろん企業なので、利益が全く出ない火力をつくるわけにはいかず、ハードルレートを超えるものにしていくというのは当然です。一方で、望む、望まないにかかわらず、ＪＥＲＡは日本で一番火力発電所を持っている企業なので、需給バランスが崩れて電源が足りなくなったときに国から頼られ、必要量を供給することが当たり前に求められます。たとえ電力会社さんや小売業者さんからオファーがなくとも、電源の過不足は絶えずシミュレーションしており、その中で判断もさせていただいています。 製造技術における国内のニーズは？ 杉尾 奥田社長のお話は非常にわかりやすく、まさに先進的な事例だと思いました。私ども大和ハウスグループは、入居者さんや需要家さんなど電気を使う側のマネジメントをしているのですが、今回お話いただいた電気の種類によるコストアップについては、容認せざるを得ないと思っています。ただ、売る側の立場として、電気に松竹梅があるということを入居者さんなどにご説明するために、そうした値付けを明確にしていただけたらと思います。特に、ＴＣＦＤ（気候関連財務情報開示タスクフォース）もある中で、会社としてのグリーン電力購入に対する買い取り価値も今後重要視されてくるので、ぜひとも早く知りたいと思っています。 また、我がグループは産業界の設備の建設という面では、需要側から供給側に回ります。国内のバリューチェーンの中で、製造技術においてはどの部分に一番ニーズがあるのか、この部分をお聞きできれば大変参考になります。 ペロブスカイト型の太陽光パネルが注目 奥田 国内で言うと、脱炭素という流れの中の一つに分散型という流れがあります。分散した地域で、地産地消型で水素をつくっていく。このモデルはある程度普及していくと思っています。今日ご説明した我々の取り組みは比較的大規模な発電所で使う水素なので、これはやはり海外でつくる必要があります。ただ、これからのエネルギーの大きなモデルとして、大規模集中型のものと分散型のものが混在していくようなエネルギー社会になっていくと思うので、分散型の水素にも注目していきたいと思っています。 また、先ほどは洋上風力を中心にお話ししましたが、実は日本は太陽光先進国です。ただ、残念ながら適地が少ないため、今はもう開拓すべきところはほとんど開拓し尽くした状況に近いと思います。そうすると、今後はフィルムのようなペロブスカイト型の太陽光パネルが注目されます。一般の家でも、今まで鉄筋の家にしか付けられなかったものが木造の家にも付けられるようになったり、建物の側壁にも付けられるようになったりする。非常にニッチな領域ですが、日本をはじめアジアは同じように太陽光パネルのポテンシャルが小さいので、ある程度まで普及していくことが予想されます。 サプライチェーン構築におけるゼネコンの役割 国谷 水素・アンモニアのサプライチェーン構築においていろいろと課題もお聞かせいただきましたが、建設の部分でゼネコンが活躍できそうな部分があれば、ご教示いただければと思います。 劇毒物アンモニアへの安全対策基礎工事が重要 奥田 たくさんあると思います。我々も水素・アンモニアはこれから取り組んでいくのですが、発電所の改造をしていく中で、先ほど改造範囲はそれほど多くはないと申し上げましたが、とはいえアンモニアタンクをつくったり、アンモニアの配管を引いたりという部分では、ゼネコンさんの技術なくしては何もできません。今はまだ始めたばかりですが、他の発電所にも水平展開をしていき、なおかつより経済的に工事を進められるようにしなければならないのです。そういう意味で、メーカーさん、ゼネコンさんと一体となって標準的なモデルをつくっていきたいので、ぜひお力をお貸しいただきたいと思います。 特に、基礎工事が重要です。アンモニアはご存知の通り劇毒物なので、安全面の対策も完璧にしなければならない。設計だけでなく施工も完璧でないといけないので、たくさんのご協力が必要です。これからよろしくお願いします。 水素・アンモニアはトレーディング物資になり得るか 藤原 ＪＥＲＡさんでは世界的に燃料のトレーディングに取り組まれているというお話がありましたが、将来水素やアンモニアを大量につくれるようになった場合、それらもトレーディングの対象としてお考えでしょうか。 世界規模のサプライチェーンを想定 奥田 結論から申し上げますと、すでに視野に入っております。水素やアンモニアも、余剰している国から不足している国へきちんと流す。それができるプレイヤーとして、世界中で柔軟に、安定した調達ができる環境をつくっていくというのが我々の役割ではないかと思っています。 アンモニアの専焼段階における発電方式は？ 加藤 ２点質問があります。１点目は、石炭火力のアンモニア混焼についてです。カーボンニュートラルに向けたトランジションという意味では、非常に有効な手段だと思っていますが、その先の専焼段階ではコンベンショナルのプラントでの専焼はお考えでしょうか。やはり熱効率があまり良くないので、アンモニアであればガスタービンのコンバインドサイクルが良いのではないかとも思っています。 ２点目は、ＣＣＳに関して、先ほど国内の発電所からのＣＯ２を海外へというお話がありましたが、国内の貯留に関してはどのようなお考えをお持ちでしょうか。 技術開発動向を見ながら選ぶ 奥田 まずアンモニアについてですが、我々も１００％専焼にするときにコンベンショナル型にこだわるつもりは全くなく、今後の技術開発動向を見ながらより良いものを選んでいくということになります。ガスタービン型はすでに小型のものができていますので、その大型版ができればガスタービン型で開発していく。さらに技術開発が進めば、コンバインド型で開発していくということになると思います。 それから国内のＣＣＳについてですが、どこまで国内でできるのか、これは量の問題だと思います。少なくとも、少量のＣＯ２を海外で処理するのは非常に高コストなので、やめたほうがいい。一方で、発電所が排出するＣＯ２は非常に量が多いので、大型船を使って一気に運び、海外で処理をする。そして、国内の貯留は小さな産業用のために残しておくというのが、国民経済的には良いのではないかと個人的には考えているのですが、ここはまだ結論を出せていないので、これから皆さんとディスカッションしながら考えをまとめていきたいと思います。 太陽光発電事業の展開 発言者Ａ 再生可能エネルギーでは主に洋上風力にポイントを置かれているという理解ですが、太陽光についてはどのようなお考えをお持ちでしょうか。 水素製造のエネルギー源としての太陽光 奥田 太陽光は、洋上風力に比べると技術的な難易度はあまり高くありません。問題は、適地があるかどうかです。先ほど申し上げたように、日本では適地はすでに開発しきっている状況です。ただ、我々としては中東、オーストラリア、北米ではまだまだかなりの普及が進むと予想していて、それも電源用だけではなく、水素製造用の太陽光として非常に魅力的だと考えています。したがって、それらの国では電源用というより水素製造用のエネルギー源として、開発を進めていきたいと思っています。 水素とアンモニアの他産業への拡大 豊山 貴社は水素やアンモニアなど、単に電力を供給するだけでなく、今後いろいろなエネルギー源をいま以上に扱っていかれると思います。その中で、電力への需要に留まらず、どの産業への需要がポイントになってくるのか。検討はこれからなのかもしれませんが、一番見ておかなければいけないファクターがあれば、教えていただければと思います。 大規模な需要が大規模なサプライチェーンをつくる 奥田 我々はまず水素・アンモニアを発電で使っていくのですが、それをやることで水素社会へのドアオープナーになると考えています。なぜかと言うと、ある程度規模の大きい需要がないと、大規模なサプライチェーンは絶対つくれないと思うのです。産業用の需要だけではなかなか大規模なものにはならないので、まずは発電で大規模需要をつくって、水素系燃料のサプライチェーンを一気につくってしまおうということです。そのサプライチェーンは発電用だけに使うのではなく、ぜひいろいろな産業用途に水素・アンモニア系燃料を含め供給していきたいと思っています。 アンモニアと水素では他産業への展開が若干異なりますが、たとえばアンモニアの場合、工業用炉や船舶用燃料への展開が非常に注目されています。工業用炉のボイラーとアンモニアはものすごく相性が良いので、それほど難しい改造をしなくてもアンモニアを扱うことができます。すでにオファーをいただいているお客さんもいらっしゃるので、実証マーケティングというかたちで検討しているものもあります。安全性が課題にはなりますが、劇毒物を取り扱うことができる産業のお客さんには非常に魅力的な燃料になっていくので、そこに注目してマーケティングしていきたいと思っています。船舶用燃料についても脱炭素が求められており、実はシンガポールでは国を挙げてアンモニアを普及させようということで、港に大規模なアンモニア用燃料の供給設備をつくる計画があります。船舶用燃料としては今後、今の燃料にプラスしてアンモニアやＬＮＧがかなり注目されることになると思っています。 一方水素は、やはり燃料電池や自動車用燃料で注目されてくると思います。そこに対する供給も念頭に置きながら、水素・アンモニアの拠点を整備していきたいと思っています。 日本の水素開発は遅れているのか 松井 我が社でも水素は１ＭＷ（メガワット）級の製造装置を導入して、研究も進めています。また、国も水素の基本戦略を改定するなど、国内では水素が盛り上がってきていると思っています。先ほどアンモニアについては、シンガポールでかなり開発が進んでいるというお話もありましたが、水素については、海外での開発や研究はどの程度進められているのでしょうか。実情を教えていただければと思います。 輸送の難しさが壁に 奥田 水素の使い方は国によって大きく異なります。発電用の利用で一番動いているのが中東です。天然ガスが豊富で太陽光の適地も多い中東では、水素を簡単につくることができます。もともと電源がガス火力中心の国なので、それを脱炭素化するために水素に切り替えていく。我々のゼロエミッション火力にも非常に興味を示していただいていて、導入したいという意欲を強く感じます。 それからアメリカは、先ほどご説明したようにニューヨークの郊外リンデンという都市で我々はすでに水素を燃やし始めていて、アメリカのガス火力でも水素の活用を検討しているところは結構あります。 一方ヨーロッパですが、ヨーロッパは発電用として水素を使うというよりは、基本的にはガスの代替としての使い方が先行して検討されています。既存のガスパイプラインがあるので、天然ガスに５％から10％ほど水素を混ぜて使用し、徐々に水素の割合を増やすことで水素化していくという方法を考えている国が多いです。 松井 実際、日本の水素開発の現状は遅れているのでしょうか。実感としてのお考えを教えていただければと思います。 奥田 もともと、水素開発は日本が世界で一番先行していた分野です。ところが、やはり輸送が難しいという問題にぶつかってしまっていて、現状大量には輸送できていないわけです。そうなると、すぐ近くで水素を簡単につくることのできる国が先に使い始めているのが現状です。そういう国は輸送の必要がないため、逆に言えば輸送技術のところは全く技術開発する気がありません。つくってそのままガスパイプラインに入れる、あるいはすぐ隣の発電所で燃やすということができるので、やはり水素の使用という面では諸外国のほうが早く使い始めて広がっていくという可能性が大きいと私は思います。 だからこそ、日本で大きな需要をつくって輸送を含めたサプライチェーンを確立させることが重要で、まずは発電用から入ることで一気に需要を増やし、一気に投資をすることが国益を考えると一番良いのではないかと思います。 カーボンニュートラル投資への意思決定プロセス 渡邊（厚） カーボンニュートラル投資に関する社内の意思決定プロセスにおいて、将来の需要や販売価格、原料の安定調達などビジネスとして不透明な面が多い中で、取締役会も含めてどのように理解を得ていくお考えなのかお聞かせください。カーボンニュートラルへの現実的な動きも出始めており、ここにはいろいろな意見があるのではないでしょうか。 長期的利益を中心に考える 奥田 核心を突く非常に難しい質問です。短期的な利益の 追求を目標に掲げていたら、カーボンニュートラルというこれほど大規模な事業に投資しようとはならないですよね。ただ、私も社会に出てからずっとエネルギー事業に携わっていますので、やはりエネルギー事業は長期的な利益を中心に考えて初めて、長く生き残っていける会社になる。そういうビジネスだと私は割り切って考えています。 実際、今まで短期の利益を追求してエネルギー事業に参入した会社は、ほとんど潰れてしまっています。ただ、そうは言いながらも最低限の投資採算ラインはクリアしなければならない。そういう中で意思決定をしていくという検討を、弊社では絶えずしているところです。やはり短期の利益だけで企業をはかることはできないので、長期の企業価値という点で、どのような投資をすべきか検討しています。 たとえば短期の利益だけを見るなら、石炭火力もＬＮＧ火力もガンガン回しておいたほうがいいのですが、国際的にこれらが突然使えなくなるというリスクが残ります。そうなると、やはり今持っている資産を座礁資産化させないために、10年後、20年後にもきちんと利益を生み出せる会社であり続けるために、今どういう手を打てばいいかを考えて動く必要があると思うのです。 我々がいま進めている火力のゼロエミッション化は、それに対してさんざん議論して出した一つの結論です。たとえば、もうガス火力はやめて明日から水素１００％の火力発電所にしよう、こういう結論も考えられるわけですが、基本的には今の発電設備を使って、それを使いながら燃料を転換することでゼロエミッションを達成していくという結論に至りました。 これは、企業価値、短期的利益、社会的利益を全て含めて考えて出した結論です。突然発電所の形式を変えてしまうと、まさにヨーロッパで起きたように、失敗したときにまず安定供給ができなくなる。それはあまりにも社会的利益の損失が大きいです。 それから、そういう失敗はビジネスの利益も大きく削いでしまう。つまり、一旦損切りして新しいものに投資して、それがうまくいかなくなったときに、もう古いものには戻れない状況になる。これは非常に危険です。ただ、今の設備をそのまま生かしながら燃料転換を図っていくという方法をとれば、まず安定供給に支障がでることはないし、投資負担は当然大きくなりますが急に利益が落ち込むこともない。段階的に燃料を切り替えていけば、財務に与えるインパクトも抑えながら新しい燃料にスムーズに移行できます。そのような道を探っていくのがエネルギー事業者としては一番大事で、取締役会や経営会議ではそういう方向性で議論しています。 水素発電の価格をどう抑えるか 小平 貴社が国際的に、かつ社会的な利益も考えて長期の視点で取り組んでおられることに感銘を受けました。かつてＬＮＧのサプライチェーンは日本が初めて構築して世界に広がりましたが、水素とアンモニアのサプライチェーンをゼロからつくるという新たなチャレンジには巨額のコストがかかり、それをどのように回収していくかが大きな課題になります。 他方、日本の産業全体で見ると、半導体産業やクラウドをはじめとするデジタル関連産業などを成長させていくためには膨大な量の電力が必要で、その価格は競争力の観点からも大変重要です。特に水素はエネルギー密度が非常に低いので、超長期で見ると水素が増えるほど経済効率が悪くなるという見方もあります。コスト・価格等についてどのようにお考えでしょうか。 それから、再生可能エネルギーの普及が進めば進むほどそれによる発電の季節変動が大きくなり、それに対応するための火力の発電能力を維持する必要がある一方、いつも需要がある訳ではないので、火力発電所全体としては稼働率が下がっていくことになるのではないかという懸念があります。この点は世界的にも大きな問題になっていますが、特に新設した火力発電所の稼働率が上がらないと、経営的には相当厳しいものになるのではないでしょうか。この点についてもお考えをお聞かせください。 規模の経済性の働きに期待 奥田 たいへん深刻な課題を提示された質問で、まさに我々も日々議論を重ねているポイントです。コストについてはたしかに最初は高いのですが、規模の経済性があるビジネスだと思いますし、需要があれば技術革新は必ず起こると思っています。たとえば自動車のエアバッグの例で言うと、最初はベンツやＢＭＷなどの高級車にしか付いていなかったのですが、それでも安全性を重視して高値で購入する人は一定数いて、それがだんだん大衆車へ広がっていった経緯があります。 ゼロエミッション火力に関しても、最初から全ての人に対して提供するよりは、まずは高値でも欲しいという方に提供するところから入って、だんだん裾野を広げていくやり方もあると思います。最初はやはり量が多くないためどうしても高値になるのですが、たとえ倍の値段でも、プレミアムを払ってでも買いたい方もいらっしゃいます。そういう方が増えると規模の経済性が働いてくるので、コストも徐々に下げることができるのではないかと考えています。 それから、火力発電所の稼働率低下の問題も同様に、今ある火力発電所を全部ゼロエミッション化するということはあまり考えていません。当然、再エネもフルスロットルでアクセルを踏んで取り組んでいきますので、全体に占める火力の比率は下がっていく。ただ、どうしても火力でないと取り切れない需要のしわは火力で補い、ただしその火力はゼロエミッション化するので高値になると、そういう構成だと思います。したがって、単純に火力の部分だけを見て議論するのではなく、社会全体の供給コストを考えた場合に、どの部分を火力が担いどういう組み合わせにすれば、脱炭素と安定供給を両立させる上で日本にとって安く最適なモデルになるかということを、これから探っていく旅に出るのだと思います。 そのときに大事なのが、発電所ごとに電力の価値を細分化し、可視化していくことです。そうすることで、最適な組み合わせ、最適な火力比率が出てくるようになる。たとえ稼働率は低くとも、需要のしわ取りという重要な役割を担う火力にコストがかかるのは仕方ないという同意が社会全体、国民全体に形成されることが、一番の理想だと思っています。 （終） 司会 公益産業研究調査会 専務理事 堀籠 節 2023年10月23日 ホテルメトロポリタンエドモント/リアルタイム配信 セミナー出席者 太田 昌孝(東京電力ホールディングス)・ 成山 和也(東京電力ホールディングス) ・井口 英彦(東京電力ホールディングス) ・林 徳寿(東京電力ホールディングス) ・稲田 慶子(東京電力ホールディングス) ・上羽 聡子(関西電力)・ 下御領泰楽(関西電力) ・鈴木 康吏(東北電力) ・鈴木 拓哉(東北電力) ・佐々木超悟(東北電力)・ 加藤 尚之(東北電力)・ 佐藤 拓(東北電力) ・阿部 泰也(東北電力) ・長谷川正樹(東北電力) ・清野 将人(東北電力)・安田 優臣(東北電力) ・阿部 浩和(東北電力)・ 半澤 徹(東北電力) ・須賀慎太郎(東北電力) ・伊勢 慶一(東北電力) ・八巻竜太朗(東北電力) ・門間 豪大(東北電力) ・黒木秀一郎(九州電力) ・藤森 誠(中国電力)・ 山﨑 正憲(四国電力) ・矢部 裕司(北海道電力) ・松井 宥典(北海道電力) ・島 拓也(北海道電力) ・伊東 照恭(北陸電力) ・渡邊 幸子(JERA) ・赤松 悠作(みずほ銀行) ・坂口 喜啓(みずほ銀行)・平野 智(みずほ銀行) ・高橋 興道(みずほ銀行) ・花房 宏樹(みずほ銀行) ・杉尾 芳彦(大和リース) ・柴崎 晃(大和リース) ・橋口 明彦(大和リース) ・鈴木 行俊(大和リース) ・吉野 恭司( JFEスチール)・ 松川 大輔( JFEスチール) ・前田 誠( JFEスチール) ・佐野 豪( JFE エンジニアリング) ・小平 信因(トヨタ自動車)・ 温湯 達也(トヨタ自動車) ・上條 英夫(トヨタ自動車)・ 高田 大士(トヨタ自動車) ・松田 丈志(東海旅客鉄道) ・久保 哲俊(東海旅客鉄道)・細野 泰寛(東海旅客鉄道) ・藤原 正彦(日揮) ・片桐 千博(日揮) ・水田 敦(トーヨーカネツ) ・瀬川 航平(オルガノ) ・小嶋 仁(オルガノ) ・豊山 忍(日立製作所) ・安倍 直樹(日立製作所) ・崔 堯煥(日立製作所) ・等々力 聖(日立製作所) ・小俣 明(ダイヘン) ・天谷 健一(国際社会経済研究所) ・大塚 達也(古河電気工業) ・関 政和(古河電気工業) ・宇佐美幸一(川北電気工業) ・原田 一朗(出光興産)・大下 浩(出光興産) ・青木 憲三(鹿島建設) ・中原 雅貴(鹿島建設) ・佐藤 聖児(大成建設) ・小橋 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