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『公研』2023年5月号「issues of the day」 日本から航空機を乗り継いで24時間あまり。アフリカ大陸の中央に位置するルワンダを４月に訪れた。首都のキガリに到着し、まず印象的だったのは、緑の豊かさだ。ルワンダは赤道近くにあるが、キガリは標高が約１５００メートルの高地にあり、日中の気温は25度ほどで、30度を超えることは年間を通してほとんどない。その気候の良さは「灼熱のアフリカ」といったイメージからは程遠く、避暑地の「軽井沢」に近い。「千の丘の国」と称されるほど小高い山や丘が多く、郊外に行けば日本の棚田そっくりの風景が広がっており、のどかな雰囲気が長旅の疲れを癒してくれた。 29年前を忘れないために 美しい自然に囲まれたルワンダだが、毎年４月になると、国中に悲しみと哀悼の空気が漂う。街中には「Kwibuka29」と書かれたポスターやステッカーが目立ち、それをスローガンに掲げたテレビ番組も放映されていた。「Kwibuka」はルワンダの言語であるキニアルワンダ語で「Remember」の意味がある。「29」は29年前、すなわち１９９４年のことを指す。この年の４月、多数派フツ人による少数派ツチ人への迫害に端を発した大虐殺が発生し、１００日間で80万人以上が犠牲となった。 キガリ中心部からやや離れた丘にある「虐殺記念館」では、虐殺に至った過程を説明するパネルや、犠牲者の写真や遺骨、遺品などが展示されているほか、敷地内の集団墓地には25万人以上が埋葬されている。記念館で貸し出される音声案内には日本語版も用意されており、それを聞きながら館内を歩くと、のどかな自然が広がるこの土地で殺戮の嵐が吹き荒れた史実に戦慄を覚えずにはいられなかった。 滞在中、最も衝撃だった場所が、キガリから車で４時間ほど南下したフイエの郊外にある「ムランビ虐殺記念館」だ。当時、この場所ではムランビ技術学校が建設されていた。大虐殺が始まると、この地域に住むツチ人たちが建設中の建物に逃れてきた。だが、フツ人の民兵たちの襲撃により人々は次々と殺され、地中に埋められた。この場所を逃れて教会に向かった人たちも多くが殺害され、犠牲者の数は５万人にのぼり、生き残った人はわずか30人ほどだったという。 写真やパネルなどが展示された場所から少し歩くと、人々が避難していた建物が今も残っている。記念館の担当者は「ショックを受けるかもしれません」と前置きしたうえで、室内に案内した。 最初の部屋には、折れたクワと汚れた衣服が置かれていた。普段は畑を耕す道具で人々を叩き、殺していったという。衣服はすべて犠牲者のものだ。次の部屋に入ると、６畳ほどの空間は異様な死臭で充満していた。木製の台にはいくつものミイラ化した遺体が置かれている。ケースも何もない。その体はよじれ、苦悶の表情を浮かべている。埋められていた遺体を掘り出し、その一部をそのまま人々の目に見せているのだ。白くなった遺体の中には、子どもと思われる小さな体のものもあった。頭が割られたような傷も目立つ。言葉を失ったまま、その部屋を出た。 ちょうど、訪れたのはムランビでの虐殺が発生した日で、敷地内では追悼行事が開かれ、多くの住民たちが集まっていた。気候と同様に温和なルワンダの人たちの表情にも、どこか悲痛さが感じられる。近くにある学校を訪れた際には、校舎の脇に「大虐殺を忘れない」との文字と、そこで殺された人たちの名前を記した碑が建っていた。「記念館だけではなく、ルワンダのあちこちに虐殺の現場がある。その記憶と共に現在まで歩んできた」。住民が語った言葉が、胸に響いた。 虐殺を経て生まれた差別への拒否感 ルワンダは議会下院定数の６割超を女性が占め、国政レベルでの女性議員の割合が世界トップに立つ。衆院の女性議員割合が１割未満にとどまる日本との差は歴然だ。その背景は大虐殺と無関係ではない。人種問題が大惨事につながった記憶が、性差を含むあらゆる差別に拒否感を持つ国民感情を醸成したとされ、２００３年に制定された新憲法では、議会を含む国や地方の重要な機関で、一定数を女性に割り当てるクオータ制が導入された。 ルワンダは大虐殺後、高い経済成長を達成したが、カガメ大統領が20年にわたり長期政権を握り、欧米から「強権的」と指摘される課題も抱える。一方、大虐殺の記憶や憎しみ、悲しみと向き合いながら、国の再建に取り組んできたことも事実だ。 日本に住む人々にとってルワンダは遠く、大虐殺もニュースを通じた「知識」でしかないかもしれない。だが、本当に「遠くで起きた出来事」としてしまっていいのだろうか、とも思う。大虐殺の際、ラジオではツチ人を「ゴキブリ」と呼び、抹殺しろと煽り立てた。日本でも在日外国人を「ゴキブリ」と呼ぶなど、ヘイトスピーチが飛び交っている。大虐殺の教訓を、時間と場所を超えて忘れてはならないと痛感した。 共同通信編集委員兼論説委員 佐藤大介

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