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『公研』2023年12月号「公研セミナー」 宮本アジア研究所代表 元駐中国大使 宮本雄二 みやもと ゆうじ：1946年福岡県生まれ。69年京都大学法学部卒業、外務省入省。90年アジア局中国課長、2006年在中華人民共和国日本国大使館特命全権大使などを経て10年退官。著書に『習近平の中国』『強硬外交を反省する中国』『2035年の中国─習近平路線は生き残るか─』など。 中国理解の大きな枠組み 宮本 本日は「習近平体制の確立と中国のゆくえ」をテーマにお話ししていきます。私は長いこと外務省で中国を眺めてきて、自分の経験をもとに中国とはどういう国か頭の中で枠組みを構築してきました。私はそれを脳内ソフトウェアと呼んでいます。もちろん、研究者の論文や学術書などは、脳内ソフトウェアを精緻化させる上で、とても役立ちます。また中国の有識者と対話することで、脳内ソフトウェアを中国の現場の目線でチェックし修正することができました。この脳内ソフトウェアを使って中国を観察・判断するのが、私のような現場育ちの人間の定めといってよいでしょう。研究者の方は過去の沢山の引用可能な根拠をもとに中国はこうだと結論付けます。我々は目の前の動いている中国を相手に、瞬間、瞬間にこうだと判断していきます。それに沿って中国に対して手を打つのが我々の仕事だからです。 １９８９年の天安門事件のとき、私は外務省情報調査局企画課長としてＧ７の政治担当をしていました。天安門事件はなぜ起きたのか、中国はこれからどうなっていくのか、一定の想定を置いて対中政策を考えなくてはいけない立場にいました。「宮本、今の中国はいったいどうなっているんだ」と聞かれたとして、「わかりません」では済まされません。まったく先が読めない段階でも、自分の脳内ソフトウェアと友人のソフトウェアを集めて議論を重ね、「我々は中国の今後をこう予想する」と上に報告をしなくてはいけないのです。それにもとづいて上も対中政策を考えるわけです。現場はこの繰り返しです。 したがって、本日お話しすることも言ってしまえば全部仮説です。中国が今どうなっているか、今後どうなるのかもすべて仮説です。「仮説とはいえその根拠を示してください」と言われても、中国の友人が昔語っていたことが頭にあっての判断だったとしたら、それを具体的な脚注として示すことはできません。現場を直接見聞きしている友人の話の中で、非常に強いインパクトを受けたものは記憶として自分の頭に残っています。そういうものの積み重ねで、私の中に中国を理解するための枠組みができあがっているのです。 まず、その大きな枠組みについてお話ししていきます。一つ目が、中国共産党は非常に理屈っぽい政党であるということです。日本の政治は、永田町がいい例ですが、理念というよりも政治的な利害損得で回っています。一方、中国共産党は利害損得も大事ですが、それでも理屈にもとづいて回っているのです。何をやるにしても理屈による整理ができないと動けない人たちなのです。過去には毛沢東思想、鄧小平理論、そして今は習近平思想（「習近平の新しい時代の中国の特色ある社会主義思想」）にこだわって国家運営をしていますが、これは理屈の政党だからです。理屈がきちんとしていないと全体のガバナンスが成り立たない。これは中国を見る上で頭に置いていただきたい点の一つです。 国民の声を気にする政党 そして二つ目に、私の経験則ですが、国民を著しく気にしている政党であるということです。私の初めての中国勤務は１９８１年から83年でした。北京の日本大使館の一等書記官でしたが、政務班で中国の内政を観察するポジションにいて、鄧小平さんの様々な会議の場での発言をじっくり読むことができました。その中で非常に強い印象を受けたことは、鄧小平さんの現状に対する尋常ならざる危機感です。「（１９６６年から10年続いた）文化大革命により、中国共産党は国民に見放されるかどうかの瀬戸際に追い込まれている。国民を豊かにさせることができなければ共産党の統治を続けていくことはできない」と切々と訴えていました。当時から、鄧小平と中国共産党は国民のことをとても気にしていたわけです。中国経済が驚異の大発展を遂げ、中国社会も急速に変わり続けました。中産階級は着実に増え、今や大学進学率も60％に近づいています。時代が下るほど、中国指導部はますます国民の声を気にしなければならなくなっています。事実、節目節目で国民の大きな声が共産党を動かしています。 その典型的な例が昨年12月に突如として終了したゼロコロナ政策です。ロックダウンに対する国民の不満が蔓延したことが大きな背景としてあります。「外国はとっくに解除しているのに、なぜ我々だけがここまで我慢し犠牲を払い続けなければいけないのか」という不満が中国全土に広がっていました。 ゼロコロナ政策終了までの流れを振り返って見ると、昨年10月の党大会までは、ゼロコロナ政策こそが習近平によるガバナンスの勝利の証だと宣伝されていました。対外的な強硬外交（「戦狼外交」）と並んで、習近平の三選を確保し、権力集中をより強固なものにするために、習近平への求心力を高めるための材料として使われていました。中国国民は政治のことはわかっています。国民も習近平の思惑を感じ取り、ゼロコロナ政策は党大会まで変わることはないだろうと考え、不満を漏らさずに我慢しました。そして、秋の党大会で習近平は、人事から何から何まですべて自分の思いどおりにできるような体制をつくり、目標を達成したのです。国民が、これで解除されるなと思っていると、翌年の春の重要行事である全国人民代表大会まで続けると言うのです。これで国民の不満は一気に高まりました。 その全国に蔓延した国民の不満を一挙に爆発させた出来事が、新疆ウイグル自治区ウルムチ市で起きた11月24日の火災です。ウルムチ市では１００日以上ロックダウンが続いていました。そんな中、マンションで火災が起こり10名が亡くなったのです。ロックダウンのせいだと、まずウルムチ市民が解除を求めるデモを始めました。多くの国民がウルムチ市民に同情して、全国規模で様々なかたちでウルムチ市民を支持する動きが起こりました。有名な学生たちの「白紙運動」も起こります。中には習近平の退陣を求める声も上がり、公然と政権批判が行われる異例の事態となりました。それだけ国民の不満が鬱積していたということです。そして、なんと指導部は12月７日に、あっさりとゼロコロナ政策を終了させました。これまでロックダウンをなぜ解除できないのか、山のような理由を挙げていたのに、その準備もなく一挙に解除してしまったのです。世論を非常に気にしていることの表れです。 政治思想と市場経済、両者の確立によって生まれる矛盾 中国を見る上での三つ目の枠組みは、中国共産党は革命党であることです。１９４９年に中華人民共和国が建国するまで、毛沢東思想は既存のものを破壊し、新たな理想にもとづく新たな国をつくる革命党としての思想でした。 ところが、１９４９年に中国共産党は革命党を卒業して、政権党になります。政権党で一番大事なものは経済の運営と社会の安定ですが、毛沢東思想では経済は運営できません。ところが毛沢東はできると思ったんですね。経済が上手くいかないのは資本主義へ走ろうとしているからであり、毛沢東思想を国民が十分に理解していないからだと彼は結論付けました。毛沢東は国家運営において思想が何よりも大事だと考えて、政治運動を何度も行い、結局は中国を破滅させるわけです。 そんな状況の中、次に出てきた鄧小平は、政治が限りなく自己抑制をして経済を自由に発展させる改革と開放を推し進めます。すなわち、一方では革命党としての政治イデオロギーを重視する姿勢を堅持しながら、他方で政権党として経済社会を上手く運営するやり方を見つけ出しました。それが有名な改革開放政策と呼ばれるものです。ところがこの改革開放政策は、中国共産党の統治の中に政治と経済の間の矛盾を抱え込んでしまいました。つまり政治思想と市場経済をいかにして両立させるかという根本問題を抱え込んでいるのです。その結果、今の習近平政権の混乱ぶりからもわかるように、様々な問題が生じてきています。これは、習近平の問題ではなく、共産党自体がそのような矛盾を抱えているということです。 習近平政権を振り返る ２０１２年に総書記に就任した習近平が直面した最大の問題は、腐敗と非効率な統治機構です。腐敗が限りなく蔓延していました。腐敗の根本的原因は制度の未成熟ですが、江沢民とその系列の人々が腐敗の中心にいました。江沢民の後の胡錦濤は腐敗を取り締まる努力はしましたが、江沢民の影響力は胡錦濤時代も落ちず、むしろ腐敗の状況は悪化していきました。それがそのまま習近平時代にまで残ります。 しかし、腐敗が蔓延すればいつかは必ず国民に見放されます。これは、鄧小平の警告でもあります。この腐敗の泥沼からどう抜け出すのかが、習近平にとって最大の課題でした。習近平は、就任早々、この腐敗にメスを入れ「大虎でもハエでもたたく」と宣言し、疾風怒濤の勢いで上から下まで徹底的にたたきました。それで習近平の政敵はいなくなり、政権基盤が固まったことは、そのとおりです。 習近平時代の大きな背景として、２００８年頃から著しく台頭してきた国粋主義的ナショナリズムがあります。実はその傾向はそれ以前からもずっとあったのですが、それまでは抑えられていました。鄧小平の外交指針である「韜光養晦（とうこうようかい）」という考え（国際社会、特に米国から叩かれないように身をひそめて、中国が発展するまでに時間稼ぎをする）が、胡錦濤政権まで残っていたからです。 国粋主義的ナショナリズムが表にドッと出てきたのが２００８年です。この年に中国は北京オリンピックで国際社会にデビューし、リーマンショックでアメリカがのたうち回っている中で一人勝ちをします。このような国際情勢を背景に、それまで隠れていた国粋主義的ナショナリズムが一気に表に出てきたのです。胡錦濤はこれを抑えることができませんでした。そこから徐々に中国の対外姿勢が強硬なものになっていきます。こういう大きな背景の中で２０１２年に習近平はナンバーワンになったのです。 習近平がトップに就いた頃、中国共産党の中では、「胡錦濤時代は、トップに権力が集中していなかったので問題を解決できなかった。習近平に権力を集中させないと共産党の統治はうまくいかない」というコンセンサスができ上がっていました。そこで習近平への権力集中はスムーズに進んだのです。いま振り返ってみると、それを実際に実現させていった習近平の政治力も大したものだったと思います。 習近平政権の10年を振り返ってわかるのは、習近平が権力を握って実現しようとしていることは、中国共産党の統治の抜本的な立て直しだったということです。中国共産党の指導者であれば、鄧小平に限らず、習近平も含めて誰しもが中国共産党という組織しか中国を引っ張っていくことはできないと確信しています。共産党の統治を続けることが中国のためだと信じています。 習近平政権がやってきたこと では、統治の立て直しのために何をすべきか。まずは、新たな理念を確立する必要がありました。冒頭に申し上げたとおり、中国共産党は理屈の政党です。理論なり思想なりをはっきりさせないと前に進めないのです。それは何よりも、共産党はどうして中国を統治できるのかという「統治の正統性」を説明することでもありました。 「統治の正統性」として、胡錦濤時代までは経済発展だけを考えていればよかったのですが、それだけでは不十分だというので、１９９０年代半ばから江沢民が歴史教育・愛国主義教育を始めます。「中国共産党は中国のためにこんな素晴らしいことをしてきた」と国民の頭に刷り込むことで、中国共産党の統治はやむを得ないものだと納得させようとしたのです。胡錦濤は、それに加え民主を拡大しようとしましたが成功しませんでした。 では習近平は何を使って国民を納得させようとしているのでしょうか。歴史教育の効果は世代交代と共にどんどんなくなっていきます。経済発展もこれだけ長く続くと国民は当たり前のことと考え、だから共産党さまさまとはなりません。そこで、習近平は「中国の夢」という将来目標を打ち出すことで、中国共産党の統治を国民に納得させようとしました。中国の夢とは２０５０年までに中国が世界のナンバーワンになることを指します。「中華民族の偉大な復興」であり、これは経済で１位をめざすだけでなく、軍事、文化、国民の幸せも含めてどの分野でも世界１位を目標にしています。そういう夢を描いて、「これを達成できるのは共産党しかいない。だから、我々についてきなさい」という論法で中国を引っ張っていこうとしています。 立て直しの第２の課題が、統治のシステムの抜本的強化です。彼らはこれを「党建設」と呼んでいます。それまでは、上に政策あれば下に対策ありということで、トップの意向が末端まで届かず効率の悪いシステムでした。習近平は「大虎でもハエでもたたく」ということで、一方で反腐敗を掲げて「大虎」の政敵を倒して、自分に権力を集中させました。もう一方で、「ハエ」は末端で悪いことをしている幹部を指します。「ハエ」も沢山捕まえました。同時に、法律や規則を山ほどつくり、規則通りに行動しないと処罰が待っているシステムをつくりました。党員の一挙手一投足を規則で縛ろうとしているのです。 そして第３に、習近平政権は、ナショナリズムの活用を大きな特徴とします。これまでも共産党はナショナリズムを活用してきましたが、習近平政権は特にその傾向が目立ちます。習近平政権となって鄧小平の韜光養晦の外交政策を放棄しました。そして、自己主張の強い対外強硬姿勢を続けています。 「習近平思想」の構築 このような国政上の様々な問題について、習近平は重要な機会を捉え「重要講話」を発表してきました。それらをまとめて一つにしたものが「習近平思想」と呼ばれるものです。「毛沢東思想」も「鄧小平理論」も、同じようにしてつくられています。これを一つの体系的な思想と考えると、逆に混乱します。マルクスが典型的ですが、思想家は図書館では壮大で首尾一貫した体系的な思想を自分の頭の中に描くことができます。ところが中国の指導者は、図書館ではなく社会の現場で具体的な問題に直面しながら発言しなければなりません。これらを全部ひっくるめると、一見、齟齬があったり矛盾したりした内容となってしまいます。その齟齬をどう埋めるのか。異なる項目同士の優先順位をどうするのか。「習近平思想」を実施に移す段階で、多くの問題に直面します。しかし、そのようなかたちで、習近平思想の名のもとに、中国共産党のありかた、国民をどう統治するか、対外関係をどう構築するか、すべてを含めて将来に対する大きな未来図を描かないと、党を一つの方向に引っ張っていくことは難しいのです。 それでは、習近平思想はその引っ張る力をどの程度持っているのでしょうか。振り返って見ると毛沢東はやはり思想家でした。『実践論』や『矛盾論』などの彼の論文を読むと、読者を納得させるだけの知見があります。彼は非常に知的水準が高いのです。毛沢東は中国古典に非常に精通していました。古典の背景がありながらも、いわゆるマルクス・レーニン主義という唯物主義にも精通しており、それをもとに１９４９年に中華人民共和国を打ち立てます。 中国には伝統的な考えとして、天下を取った者が新たな王朝をつくり、皇帝となります。皇帝は何をしてもよい神のような存在です。国民が毛沢東にひれ伏すのは、彼が天下を取り皇帝になったからです。彼には建国という実績にもとづく権威があり、それは毛沢東思想により実現されました。だから、文化大革命で大失敗するまで、中国共産党は毛沢東思想を放棄できなかったのです。 一方、鄧小平はそれではいけないということで、経済重視の非常に実践主義的な路線を打ち出します。毛沢東の路線を修正しましたが、鄧小平は自分が社会主義者であり共産党員であることを一時も忘れたことはありません。そして、彼のすごい点は、後に改革開放政策と呼ばれる理論は、最初から支持されたわけではなく、実践の中で具体的成果を上げ支持者を増やしていったという点です。今度は彼らが鄧小平の理論の発展に積極的に貢献してくれるようになり、鄧小平理論は、上から下まで皆が納得する理論となったのです。 「習近平思想」は習近平チームがつくってきましたが、この思想が正しいかどうかは、まだ何も証明されていないのです。本当の実践は、２０２２年10月の第20回党大会からの習近平第３期政権から始まったと見るべきだからです。ということで毛沢東思想や鄧小平理論とは違い、まだ国民の信任を得ていません。信任が得られるかどうかは現場が答えを出します。経済、社会、外交の、それぞれの現場において国民が望む結果を出せなければ、習近平の思想は間違っていたということになるわけです。結果を出せなければ、その考え方なり政策なりは間違っているというのが中国共産党の基本的考え方（「実事求是」）だからです。 権限の集中は完了 習近平は自分への権限の集中を進めてきましたが、これはほぼ完了しました。ただ、「権限」というのは、なにかをやることができるということであり、実際にやれるかどうかは別問題です。日本社会でも長という肩書きに就くと、そのポストの人が行使できる権限は決まっています。しかし、権限通りに物事が動くとは限らないことは、皆さんもあちこちで目にされているでしょう。習近平は、そういう権限というものをすべて握ったということですが、それ自体、大変なことであり、習近平に圧倒的政治力がなければとても達成できません。人民解放軍、公安、国家安全部、検察、裁判所といった、統治の背骨である実力部隊も掌握し、人事もしっかりと握っています。 それでも現状は、その権限を使って党指導部が思うような統治ができているかというと、そうは見えません。いまだに「二つの確立」（中国共産党内で習主席の「核心的な地位」の確立と「習近平の新しい時代の中国の特色ある社会主義思想」の確立）を言っています。恐らくまだ「確立」されていないので言い続けているのでしょう。党の決定を経て権限だけは与えられたが、それを使って現場を動かすところで困難に直面していると見るべきです。 困難の一つが、官僚機構の目詰まりにあります。例えば、上が決めたことを実際に実施する機関は地方政府、特に省より下の県や市といった国民に直結している行政機関です。あらゆることをやらされています。経済だけではなく、治安、文化、教育、社会保障等、本当にすべてのことを末端の行政がやらなければいけません。したがって仕事量は胡錦濤時代より大幅に増えているのですが、それだけのことをこなすマンパワーが今はありません。官僚機構は全体に相当のオーバーワークになっています。今は、地方政府にお金もありません。優先順位を付けなければやっていけないのに、上からの指示が錯綜しており、しかも「全部大事だ」と言って下りてきます。 習近平政権は習近平思想を共産党員、そして国民に理解させれば、世の中は動くという想定に立っています。もともと中国共産党は何か新しい方針が出されたときには必ず学習会を開きます。まずは中央レベルで開催され、それが地方レベルに下りていき、最後は末端の組織にまで及びます。そういうやり方で、中央で決まったことを末端まで理解させるようにしているのです。習近平政権となり学習運動は一層重視され、より頻繁に行われています。これが官僚機構の現場の大きな負担となっていることも事実です。 さらに現場のトップにすべての責任を持たせる制度（「領導幹部責任制」）が導入され、トップの行動は厳しく監視し管理されます。トップをやるのはかなりきついのです。 中国の官僚機構の現場には疲労感が漂っていますし、不満の声も届きます。党中央は官僚たちに、「あなたたち中国共産党員は中国社会のエリートであり、国家に対して崇高な責務を負いそれを果たすことが使命である」と説きます。高い理想と高い水準を要求しているのです。私も霞が関にいましたが、日本の官僚で中国政府が共産党員に要求するような基準に合格できる人は何人いるでしょうか。多くはありません。それほど要求のレベルが高いということです。 組織管理の手法として、アメとムチと言いますが、習近平政権の手法は、ムチは多いがアメは少ない気がします。江沢民の時代は腐敗は蔓延していましたが、権限のあるポストにつくと「副収入」もあるので、ポストというアメだけで皆が江沢民のために一生懸命働きました。現在は上に行けば行くほど責任は加重するのに、収入は大して増えません。腐敗を厳しく取り締まっているので、副収入はゼロです。中国でも「出世をしなくてもいい」と考える若い人たちが増えているそうです。そこで再び習近平思想の学習運動ということになります。現場の苦労は続きます。 政治と経済のぶつかり合い 習近平思想を実施に移す上での第２の困難は、すでに触れた政治と経済のぶつかり合いです。習近平は政治とイデオロギーを非常に重視します。私が観察してきた限り、鄧小平の時代から胡錦濤の時代まで、政治は経済に口を出さないように限りなく自己抑制していたように思います。市場経済に本来の役割を果たさせることこそが経済を成功させるカギだとわかっていたからです。あの時代は、何にもまして経済発展が政権の最重要課題だったからです。習近平政権となり政治とイデオロギーに軸足が移ってきました。最近は民間の党組織や、社会組織に対する党の指導の強化をよく言うようになりました。 中国共産党の党規約によって、共産党員が３名以上いる場合は、いかなる組織であっても党の「基層組織」をつくらなければなりません。民間企業でも同じです。例えば、日系企業が２０００人の中国人従業員を抱えていたとします。そのうち３名以上中国共産党員がいたら、会社に報告するかどうかは別問題として、彼らは基層組織をつくる義務があるのです。しかし、胡錦濤の時代まで、民営企業内の党委員会は経営には口出しをするなというルールが存在しました。今はそうではありません。政治イデオロギーが経済の分野にまで口を出し始めたのです。私はここに経済が上手くいっていない理由の一つがあると考えます。 今年10月30日、31日の２日間で中央金融工作会議が開かれました。この会議の報告を新華社通信（中国の国営通信社）が次のように報道していました。つまり「マルクス主義金融理論と現在の中国の状況を結合させて、中国の伝統的で優秀な文化を受け継ぐ新しい企業を今後つくり、中国共産党の金融工作に対する集中統一指導をさらに強化する」と。経済に関する報告にも必ず前書きに政治が絡んできています。昔だったら、金融関係の報道にこのような政治的な前書きは出てきません。すぐに金融の問題に入っていました。 これまでは政治、ましてやイデオロギーと関係なく金融の世界だけで判断がなされていましたが、今は違うということです。社会主義のイデオロギーを強調した昨年の共同富裕の大騒ぎがその例です。それは経済、特に企業家心理に大きな影響を与えました。金持ちは敵、ましてや脱税しているやつは敵だという風潮となり、税務当局が映画や音楽といった領域の著名人をどんどん捕まえ始めます。そうなると管理強化の流れとなり、自由な文化活動はどんどん萎縮していってしまいます。このような極めて大きな問題を習近平政権は抱えているのです。 習近平政権の抱える諸課題 いま習近平政権は非常に難しい局面に入っています。中国国民は日増しに増大するより良い生活への要求を満たしてくれと求めています。その中国社会は、確実に脱工業化社会、情報化社会に突入しています。より斬新なＺ世代的価値観も出てきています。中国は間違いなく国民の考えが大きく変わる境目に立っていて、社会にある価値観が多様化し多層化してきているのです。そんな状況において、習近平政権は習近平思想という一つの思想で社会を管理しようとしています。現実との乖離がどんどん進んでいっています。現場で経済、そして社会と政治的イデオロギーの乖離が起こっている。これが習近平の抱える大きな課題の一つです。 経済に対する答えは、市場という経済の現場が出します。市場を大事にすれば中国経済は少なくとも潜在成長率に近い結果を出し続けることは可能でしょう。しかし、政治が市場の機能をゆがめれば、現場はノーの答えを出します。習近平政権にとって、経済も大事ですが、政治も大事です。この政権は政治の関与による経済のマイナスを軽視しかねません。そうなると中国経済は非常に難しい方向に舵を切ったということになります。 経済の先行き見通しが暗くなる中でも、習近平政権は中華民族の偉大な復興を一生懸命唱えています。私も中華民族は必ず復興すると思いますし、もうかなり復興しています。しかし２０５０年にあらゆる面でアメリカに並び、場合によっては追い越すという目標の達成は難しくなっています。現実的に見ると、中国はアメリカをＧＤＰで抜くことさえ難しいという見方が増えていますし、抜いたとしてもいずれ抜き返されるというのが一般的な見方です。私も、ＧＤＰはいざ知らず、軍事力、ましてやソフトパワーも含めて中国がアメリカを抜く日は来ないと考えています。 軍事面でも中国はアメリカを抜くことは不可能です。軍事大国と称されていますが、国防予算はアメリカの４分の１です。もちろん隠れた軍事費があるのかもしれませんが、予算を倍に増やすのに、年率７・５％で伸ばしても10年はかかります。それでもアメリカの半分です。その間、アメリカも軍事費を増やし続けているので、現実的に考えて軍事予算で中国がアメリカを抜くことは不可能です。中国の軍事力は確実に増強されており、技術面での進歩も著しいのですが、それでもアメリカを抜く日は来ないでしょう。 中国経済の伸びが鈍化すると、税収の伸びも鈍化し、いかにして社会保障を支えるかの問題が急浮上します。「大砲かバターか」のジレンマに直面するのです。経済の成長鈍化によって高まる国民の不満は、社会保障や福祉を増強してバランスさせることになります。仮に一人につき１０００円を支給するとなったら、中国国民全員に支給すると１兆４０００億円もかかる。そもそも１０００円で喜ぶ中国人はもういないので、では１万円となると、14兆円の予算が必要になります。今では１万円でもパンチ不足です。とんでもない財政負担を強いる局面が待っているということです。そうなると、今のような軍事予算の伸びを維持することは不可能となります。中国の軍事大国路線は、いずれかの段階で真剣な再検討を迫られることでしょう。 アメリカを意識する中国人の友人たちに、「アメリカに負けたからといってイライラするな。アメリカは世界中の人が移住してつくった国であり、特別な国だ。要するに小さな地球と言っていいわけで、地球に負けたのだから中華民族がどこかの民族に負けたという話ではない。そういう目でアメリカを見たら気も収まる」と慰めてきました。やはり、中国はアメリカを抜くことはできないのです。 そうなると、２０５０年までにすべてにおいて世界のトップに立つという、「中国の夢」の実現は極めて難しいということになります。その夢が破れたときに、中国共産党の統治の正当性が大きく揺らぐ可能性があります。そもそも習近平は文化大革命の世代であり、「中国の夢」もその世代の夢に近いといっていいでしょう。世界の若者文化に日常的に触れながら、一種の国際人としての感覚を持っている若い世代の夢とは違うでしょう。世代交代とともに「中国の夢」の中身も変化せざるを得ないということです。 中国国内でも米中関係への心配が募る 次にアメリカとの関係です。中国が「アメリカに追いつき追い越す」という今の対米姿勢を続けるのなら、アメリカの対中姿勢も変わらないと思います。次期大統領もトランプ・バイデン政権の対中路線を引き継ぐでしょう。米中対話は進んでいますが、中国は対話をしながらも同時に南シナ海でフィリピンとぶつかり、さらにこれ見よがしにプーチンと握手をしています。中国がそういう姿勢なので、アメリカの対中姿勢も変わりません。中身に関係のないことで中国の面子を立て、協力可能な環境等の問題で、中国の協力を引き出す戦術は取るでしょう。経済関係もデカップリングは避け、中国経済から最大限の利益を得ようとするでしょう。しかし、基本は中国を抑え込み、少なくとも軍事安全保障や先端技術などの、中国がアメリカを抜くために必要な部分は徹底的に中国と争う決意がアメリカにはあると思います。 中国の中でも特に長老たちを含む指導層や有識者が、現在の米中関係を心配していると思います。昨年のペロシ下院議長訪台で米中の軍事衝突の機運が一気に高まりました。戦争になれば中国は確実に負けます。軍事的に中国が優位になったと安全保障関係の人々は言っていますが、それは台湾海峡を含む戦域だけを見た場合です。米中が戦うとなれば戦闘はグローバルに及びます。当然アメリカは中国へエネルギーや物資を運ばせないようにします。そんな危機的状況になりかねない戦狼外交的な対米姿勢でよいのかという中国国内の意見は強まっているはずです。 次に経済についてです。中国経済は完全にグローバル経済の中に組み込まれています。当然中国からするとアメリカとの経済のデカップリングは避けたいところです。しかし、今の対米対抗姿勢を続けていれば、デカップリングは間違いなく進みますし、外国人投資家や中国の国民心理に影響を与えることは間違いありません。これは中国にとってかなりのマイナスです。中国国内にも対米関係をどうにかしなくてはいけないという意見がオピニオンリーダーの間で唱えられていると思いますが、それは経済的考慮からでもあるのです。習近平が柔軟な姿勢を示せるかどうかがカギとなります。 繰り返しになりますが、ここでもすべて現場が答えを出すことになります。上手くいかなかった場合、習近平の指導力が問われるのですが、私の悪い予感では、習近平の体質からして今の姿勢を続けていくような気がします。（追記：11月の訪米の際、習近平主席は「中国はアメリカと競争するつもりもないし追い越すつもりもない」というメッセージを意識的に発出していた。） 一点付け加えますと、中国経済は、はっきり言って中国政府の政策通りに動いているわけではありません。むしろ、経済に参加している一人ひとりが必死になってお金儲けをしようとがんばっているから、中国経済は回っている側面があるのです。中国の人々は日本人とは経済活動のスタンスが異なります。日本人はやっていいことしかやりませんが、中国人はやってはいけないこと以外全部やります。グレーゾーンは全部やります。なので、政府が間違った政策を出しても、そこをかいくぐって必死にお金を稼ごうと経済活動をする。これがあるから中国経済は、エコノミストの予測と必ずしも一致しない結果となってしまうというのが私の持論です。この中国経済の持つエネルギーによって、中国経済は私たちの想定するほど悪い結果にならないかもしれません。いずれにせよ、中国は今後も習近平思想のもとですっきりしないかたちで推移していくのではないかと思います。その間、米中関係も含めた危機管理が非常に重要になってくるでしょう。 ◆意見交換 中国の経済外交が変わるとき 金子 中国共産党は理屈を大事にする一方で、国民の声を無視することもできないというお話をいただきました。今までの中国の外交政策を見ますと、習近平主席は「一帯一路」等の海外政策を展開して経済力で外国を取り込もうとしているように見えます。その一方で、中国経済というのは、今日のお話のように、最後は国民一人ひとりの頑張りで何とかなっているのだとすると、どこかで経済外交政策が行き詰まって、国民から「もっと国内のことを見てほしい」という声が高まり、そちらに舵を切らなければならなくなるときが来るのでしょうか。どういったことが起きると習主席が海外から国内へ目を転じるようになるのか、そうなる機会が今後生じるのかどうかについて教えていただきたいと思います。 国民の目を意識した外交 宮本 外交も内政の延長です。今の中国が内政を無視して海外にどんどん出ているとは思っていません。なぜ海外に出ているのか。もちろん外交的に中国の影響力を拡大したいということはあります。先ほど申し上げたように、戦狼外交が習近平三選のための一つの布石であったということからもわかるように、世界から褒めたたえられている中国を国民に見せることが大事なのです。 一帯一路も含めて中国の援助外交が急増したときに、中国国内にこれだけの貧困層がいるのになぜアフリカまで行って援助するのか、という声はけっこう強くありました。対外貸し付けが増え、国内の資金が不足しているときに、外国にどんなカネの貸し方をしたのだ、返済されないのではないかと国内から批判されたことがあります。例えば、スリランカの港湾を99年租借するという話になったのは、国内から批判されないように焦げ付く前にさらに担保を取ったわけです。ですから、今のように中国経済の成長力が弱くなってくると、海外援助も当然調整されるでしょう。常に国民にどう見えるかを意識しながらやっているということです。 今年10月の一帯一路の国際会議にあれだけハイライトを当てたのも、サウジアラビアとイランの仲介外交の成功を強調するのも、アメリカの外交攻勢の中で中国国民が中国は追い込まれているのではないかという感覚を持ち始めたことに対して、そうではないことを示すためです。 「中国共産党員」と「国民」は一致しているのか 北村 私の質問は二つあります。一つは、今日のお話で盛んに出てきた「共産党員」と「国民」という言葉ですが、人数的に言うと14億人の国民のうち党員は１億人近くいると聞いています。あらゆる組織の官僚はみんな党員だと思っていいのではないかと私は理解しています。けれども、残り13億人は党員ではない国民です。党員に対しては習思想の学習会で習近平の神格化を浸透させていこうというのはわかるのですが、国民はどう思っているのだろうかと思うわけです。今日のお話を聞いて、国民は法律に触れない限り、ありとあらゆることをやって一生懸命稼いで豊かになろうとする。それで中国経済は回って発展してきている。共産党が立派だから上手くいっているわけではない──という理解でよいのでしょうか。 それに関連して、いま中国国民が愛国主義的になっているのは、習近平あるいは中国共産党に言われて学習しているからそうなっているのか。党員かどうかは関係なく、２０００年代から中国が発展してそれなりに豊かになったことを経験した国民、特に若い世代が愛国主義的な傾向を持ち、中国の外交戦略──戦狼外交のようなことをして世界を振り回していることにも肯定的であると言う人がいるのですが、そのあたりはどうでしょうか。 愛国主義教育法が成立 宮本 中国共産党の統治能力は決して過少評価するべきではないのですが、国民の存在は大きいと思います。今回のＡＬＰＳ処理水について、私は中国の友人たちと意見交換しました。いわゆるインテリ層や日本へ観光旅行に行くような中産階級の人たちは全体の３割ぐらいいるらしいのですが、こういう人たちは中国共産党の宣伝を鵜呑みにすることはなく自分で調べて判断しています。だから、処理水問題でも直ちに日本がけしからんとはなっていません。北京の日本大使館のホームページには、中国語で処理水問題について説明が載っています。そこをクリックして入ったら、福島の処理水は中国の原発の排水よりもトリチウムが少ないということが具体的な数字で書いてあります。ですから、関心がある人はそれを調べて、中国外交部の言っていることが正しいのなら、反対する国がなぜ中国とロシアだけなのだろう、と思うわけです。 しかし、残りの７割の人たちは、そういうことを調べません。共産党に言われた通り、日本はけしからんということで、一部の人は日本の大使館に抗議の電話をかけるらしいのです。こういうことは中国社会全体に言えることではないかと思います。中国の国民が二つに分かれているというのが、私の見方です。インテリ層、中産階級と言われる人たちは確実に増えていくわけですから、時が経てば中国がもう少しバランスのとれた見方ができる時代が来るのではないでしょうか。現に中国の大学進学率は60％に近づいています。中国の世論も共産党に言われた通りそのまま反応することは今後減ってくると思います。 これまで習近平は国民の多数がノーという政策はやらなかったから、国民からの支持はけっこう高かったのです。特に「反腐敗闘争」は拍手喝采でした。それまで中国共産党の幹部は悪いことをしてもほとんど捕まらなかったからです。中国国民が日頃接するのは末端の共産党員であり、大体地元のボスです。村レベルから県や市まで、そういうところを牛耳っていたので腐敗していたわけです。そういう連中もどんどん捕まえていったので、多くの国民は間違いなく習近平を支持しています。 中国共産党の内部では、行き過ぎだ、ここまでやらなくてもいいだろうという、習近平の反腐敗運動に対する抵抗も起こったはずです。しかし、大多数の国民が支持しているので、その抵抗運動は大きくならなかった。国民の支持を大義名分に、習近平はさらに反腐敗運動を進めていった。それに反対・抵抗できる人間は、今の中国共産党の中にいないのです。ということで、国民世論が党内世論を大きく制約しているわけです。 政府の官僚はほとんどが党員ですが、その党員が非党員とWeChat（ＳＮＳ）のネットワークで繋がっています。例えば、小学校の同窓会などのグループ──WeChat の一つのグループは最大５００人まで──にいろいろな人が入っています。民間人も多いでしょう。こういう仲間内では、党の指導者の批判は禁句だとしても、相当自由な意思疎通は図られています。ですから、国民世論と党内世論は完全には分かれていないのです。チャットのアカウントを持たない上層部は別にして、多くの党員は社会と繋がっています。ですから、社会の雰囲気が共産党内の雰囲気に影響を及ぼすのです。 それまでは間違いなく習近平に対する支持は高かったのですが、ゼロコロナ政策の転換でもたつき、名声に傷がつきました。そして、これからは習近平思想を共産党の外にまで広げようとしています。この10月末に「愛国主義教育法」が成立しました。学校で愛国主義教育をやって習近平思想を教えるわけです。愛国主義教育法の中身を見ると、家族の長に子どもの愛国主義教育の責任を持たせようとしています。家族の長の９割は共産党員ではありません。共産党が実際にそこまで厳しくやり始めたときに、国民がどう思うかという次の相当厳しい問題が生じてくると思います。私は党中央の評判を落とすことになるのではないかと懸念しています。 昨年の党大会では、習近平は求心力を高めて見事に三選を果たしました。自分がやりたい人事を１００％実現して、習近平時代が来るとみんなに思わせました。このままで行くと、それがある意味で習近平政権のハイライトだったということになりかねません。10月27日に李克強・前首相がああいうかたちで亡くなって、それに対する国民の追悼の声がけっこう大きいことを当局は気にしています。 周恩来が亡くなったときも、彼を追悼する動きを当局が抑えようとしました。それに反発した市民がさらに大きな追悼運動を行い、１９７６年の第一次天安門事件に発展したわけです。その次は胡耀邦が亡くなって、彼を追悼する動きが89年の第二次天安門事件になっていきました。哀悼の意を表すというのは、中国人としては当然やらなければいけない感情の発露です。それを当局が抑え込んだときの国民の反発は強い。ですから、当局が心配するのも理由のないことではありません。 しかし、何かのきっかけで白紙運動みたいなものが広がるかもしれません。そういう心配をしなければいけないのは、習近平の権威というか、勢いに陰りが見えていることが背景にあると思います。 中国の台湾侵攻と対ロシア外交のゆくえ 壹岐 アメリカあるいは日本国内でのインテリジェンス系情報では、半年ぐらい前まで、２０２７年頃までに中国が台湾侵攻を行うのではないかという論調が多かったと思います。この可能性について先生はどのようにお考えでしょうか。 もう一つは、中国とロシアのプーチンとの関係です。ウクライナ戦争後、プーチンの国際的な評価は西側から見ている限り地に落ちていますが、そういう中で習近平はプーチンをうまく利用しながら独自の立場を強調して、国際政治・国際社会の中での中国の存在感を演出しているように見られます。今後の中国の対ロシア外交はどうなっていくとご覧になっていますか。 国民に説明できる大義名分がない限り習近平は動かない 宮本 まず台湾侵攻ですが、私はずっと中国の台湾侵攻は不可避であり、時間の問題だという判断に違和感を持っています。おそらくそういう発信をされる方は軍事的シミュレーションをおやりになって、台湾海峡を含む戦域において中国の軍事力がアメリカを排除できる力を持つことを前提に、アメリカの対応が難しくなる時期に攻勢をかけるだろうという議論の組み立てになっているのだと思います。ただ、私は軍事シミュレーションですべてが決まるとは思いません。 いま中国が台湾侵攻すれば、現時点ではアメリカは受けて立つと思っています。そうすると、米中戦争になるわけで、間違いなく世界経済は１９２９年の大恐慌以上の混乱が起こると言われています。戦争が長引けば中国経済は打撃を受けて国民の生活を直撃します。戦争をすれば若者は命を落とします。一人っ子の若者の後ろには、２人の親と、４人の祖父母がいます。台湾の人たちも同じ漢民族です。同族の命を奪うことを中国国民が納得するのかということです。 何度も申し上げるように、中国のすべての政策は内政なのです。習近平は内政を中心に考えているわけです。ですから、台湾に侵攻したら内政にどう響くか、自分の統治にどう響くかというのが最大の関心事項です。台湾を解放することで歴史に名前を残したいからやるという説もありますが、冗談ではありません。台湾を解放しなくても、習近平思想を成功させたほうが遥かに歴史に残ります。したがって、国民に説明できる大義名分がない限り習近平は動けないというのが私の判断です。 そうすると、国民に説明できる大義名分は何かというと、「一つの中国の原則」の破壊──台湾が独立したいと言ったときです。そのときに軍を出すことに大多数の国民はやむを得ない、むしろ独立とは何事かという怒りで侵攻を支持する状況になるかもしれません。それを台湾の蔡英文政権もよくわかっています。先走って大騒ぎをしているのはアメリカであって、蔡英文政権は極めて慎重に対応しています。 ウクライナ戦争では、ウクライナは世界第二の軍事大国であるロシアの侵攻作戦を阻み抵抗を続けています。おそらくプーチンも侵攻前に軍のアドバイスを求めたでしょうから、この事態は習近平政権──少なくとも習近平個人に人民解放軍の説明をどこまで信頼していいのかという疑念を生じさせたかもしれません。 蔡英文が総統に就任した際に「92年コンセンサス」──中国と台湾の当局間で「一つの中国」問題に関して達成したとされる合意──を認めないと言いました。当時、それに対して習近平が感情的に反発して人民解放軍に台湾解放の準備を命じた可能性はあると思います。中国の動きを注視していたアメリカは侵攻の準備だと思うわけです。しかし、習近平としては自分の怒りを台湾に伝えることが目的であって、侵攻する意図はなかったと私は思います。習近平は台湾解放をやるという憶測が独り歩きして、先ほど言ったシミュレーションもそれを裏付けるので、一時期大騒ぎになりましたが、今は沈静化しています。 中国とロシアとの関係は便宜的な握手以外の何ものでもありません。中ロの国境は４０００キロメートルを超えています。極東ロシアの人口は５００万人ぐらいなのに対して、中国の東北三省には１億人ほど住んでいます。これはロシアにとって大きな圧力です。それから、帝政ロシアが清朝から奪った土地は１００万平方キロメートルに達し、日本国土の３倍弱です。中国では、広大な土地を帝政ロシアに取られたという歴史教育がなされています。そういうことをロシア側も知っていますから、本来はそう簡単に手を握れないのですが、今の国際情勢の中でロシアにとって頼りになる国は中国しかないのです。ですから、プーチンは習近平にすり寄っています。 昨年の北京オリンピックの直前に中ロが共同声明を出して「中ロの協力には制限はない」という姿勢を示し、世界を驚かせました。その直後にロシアはウクライナに侵攻し国際情勢は大きく変わるのですが、共同声明発出の段階では、習近平としてはロシアを巻き込んでイデオロギー面でもアメリカに対抗していくという姿勢が強かったのです。あの段階でロシアは、ウクライナ侵攻について中国側にどれだけ明確に説明していたかどうか。ロシア側からするとちゃんと言ってあったと釈明するかもしれませんが、それを中国側がどこまで正確に理解していたのかどうか。いずれにしても、このウクライナ侵攻問題に関して中国側はロシアに文句があるわけです。 ただ、中国にとっても、西側との対峙で意味のあるパートナーはロシアぐらいしかいないわけです。だから、便宜上、仲の良いふりをしているのです。いわゆる地政学の観点からすると、中ロは衝突の宿命にあります。だから、現在の国際環境のもとで、中ロが手を結んだほうがお互いに有利だから便宜的に手を握っているにすぎません。それが中ロ関係の本質ではないかと思いながら眺めています。 習近平以降の中国 発言者Ａ 習近平は何をしようとしているのか、体制は確立したのか、そしてどこに向かうのかというお話をいただきました。最後のどこに向かうのかという点で、私が以前から関心があるのは、習近平以降についてです。習近平が身体的なこと以外で退くとしたら、時間軸も含めてどのくらいのことになるのか。果たして後継者をしっかり育成しているのか。一人の人間が長い間独裁的なことをやっていると、自分の後継者をあえてつくらない傾向があると思います。そんな中で習近平以降の中国はどうなるのか。そのときに、現場の答えに後継政権はどう向き合うのか。そのあたりをご教示いただけるとありがたいと思います。 育ちにくい後継者 宮本 おっしゃる通りで、毛沢東も後継者をつくろうとしてつくれませんでした。毛沢東は常にナンバー２を切ってきました。切られなかったのは、林彪が切られてナンバー２になってしまった周恩来だけでした。いずれにしても毛沢東は、ナンバー２に対して自分の寝首を掻くかもしれないという恐怖心を常に持っていました。だから、そう思った途端にナンバー２を切ってきたわけです。 習近平にも同じ傾向があります。李強・国務院総理は党内序列で２位です。彼は習近平が浙江省の省党委書記でいたときの秘書長を７年務めています。ですから、間違いなく子飼いの部下です。李強を国民総理にすると同時に、蔡奇・政治局常務委員──福建省時代の習近平の部下で李強よりもさらに古い側近、７人で構成する政治局常務委員会は中国共産党の実質最高の意思決定機関──を党中央弁公庁主任にしたのです。中央弁公庁主任の重要な仕事は日程の管理です。習近平に会わせるかどうかはすべて蔡奇が決めるわけです。すなわち、政治局常務委員という高いポストにいた蔡奇を中央弁公庁主任にしたのは、李強とバランスをとるためにやったとしか思えません。 それから外交部を見ると、王毅が政治局員になって外交部長と兼任になり、外交部系列のナンバー１になるわけです。ついに王毅が習近平の片腕として全面的に外交をやるのかと思っていたら、最近、更迭されましたが、秦剛駐米大使が外交部長に起用され、３カ月後に国務委員──副総理待遇になりました。あれだけ急いで秦剛を国務委員まで引き上げたことに、私は違和感を覚えました。 つまり、後継者は育ちにくいということです。しかも習近平政権に勢いがなくなれば、長期政権は難しくなります。そこで政局となり混迷するのですが、混迷の中で江沢民が抜擢されたように、そういう中で次の指導者が浮上してくるでしょう。我々が頭の片隅においておくべきことは、中国共産党が中国を統治することは全党員の利益であり、党を分裂させて自滅することはしないということです。 私は「中国も空気社会だ」と言い続けています。中国での空気は、ものすごく強い力を持っています。世論がこの空気をつくり上げていくわけです。そうなったときに習近平四選についても「現場が答えを出す」ことになるでしょう。 日本の政治家と尖閣問題 小嶋 中国あるいは習近平政権に向き合う日本の政治家に必要なこと、それから足りないものは、どういうようなことが挙げられるでしょうか。 次に尖閣諸島の問題ですが、日本が外交的なやり方で有効なことは、どんなものがあるのでしょうか。 軍事安全保障の対立ではなく政治外交の対話を 宮本 日本の政治家にだけ要求するのは少し酷かなという感じがします。というのは、もう世界中から戦略というものがどんどん消えているからです。むしろ中国の戦略好きがうらやましいくらいです。バイデン政権がどのくらい明確な対中戦略を持って外交をやっているかも疑問です。中国の潜在的な脅威に対抗しながら新たな関係をつくりたいという願望は見えてきますが、どうして願望を実現するのかという戦略もプロセスも見えてこないのです。ぶつかってはいけないということで、バイデン政権は今の対応をしているわけですが、そこにぶつからないための戦略が必要なわけです。それが見えてこないということです。 何を言いたいかというと、日本の政治家にはこの戦略がないということです。中国が好きでも嫌いでも構わないのですが、今の日本だけでなくの時代の日本が中国とどういう関係を保っておくことが日本にとってベストな選択か。これが私の出発点であり、そういう観点から戦略を持たなければいけないのに、それが見えてこないのが、私は非常に残念だと思っています。 一方で、中国の軍事力の増大は確実にあるわけです。中国を口先で非難すれば、それで終わりという話ではない。私に言わせると、どうしてもっと前から中国の軍事力増大に対応してこなかったのかということです。１９９０年代の終わりから２０００年代の初めにかけて中国の軍事力に対する警戒論はありました。それなのにアメリカの国防総省も日本の防衛省もそれに対応してこなかったのです。もちろん日本には特殊な世論があってやりにくかったことがあり、防衛省には同情すべき余地は多々あります。しかし、米国防総省は、今は大慌てで対応していますけれども、当時はイラク侵攻に膨大な金をつぎ込む一方で、中国に対しては何の手も打たなかった。中国の軍事力増強に対して、きちんと対応してこなければいけなかった、というのは正論なのです。 しかし日中関係は、多くの要素からなる有機体であり、軍事安全保障の対立が日中関係全体を牛耳り、政治外交の対話に取って代わってはいけません。東アジアに平和で安定した国際環境をつくるというのが我々の絶対的な要求です。これをなくしてどうして経済発展ができるのでしょうか。そうすると、政治外交の第一の任務は、平和で安定した国際環境を東アジアにつくることでしょう。中国と話し合わずどうしてつくれるのですか。堂々と中国と話し合えばよい。当然軍事安全保障の問題では中国にも言い分があるでしょうし、こちらにも言い分がある。お互いの懸念をどう緩和し関係を安定させるのかという対話をして、東アジアに安定した環境をつくらなければいけません。 経済についてはお互いに利用し合えばいいというのが私の基本論です。もちろんサプライチェーンや経済安全保障の問題が新たに出てきていますけれども、だからといって日本が中国を完全に切ることは経済的にできません。そうだとすると、中国を最大限に活用して日本経済の発展に利用することは正しい結論だと思っています。そういう戦略も足りないということです。 それから、中国に強いことを言っていれば正しい外交だというのは、子どもの外交です。成熟した大人の外交というのは、対話をして何かを成し遂げようとすることです。中国側に日本の懸念を伝えます。それは決して文句ではありません。中国側の官僚が感情的で不必要な反応をしないような言い方でやる。これは外交技術です。そういう付き合いをしてくれと言っているわけです。そのためには頭の中を整理して、中国側をきちんと説得できる準備をしておかないと、そういう議論はできません。 処理水問題で日中関係がガタガタして首脳会談がなかなかできません。中国側は国内世論への配慮から日本にいろいろ言ってきているわけです。中国の国内問題になっているので、「政府の対応は間違っていたから撤回します」とは絶対に言えません。そんな相手に日本の立場だけを通そうとするのは外交ではありません。だから、そういう背景を含めて考え抜いて中国に対峙すれば説得の可能性が広がるのです。その腕を磨いてもらいたいと思います。 日本は尖閣諸島を守るという意志を 尖閣諸島に関しては、まずやらなければいけないことは、尖閣は日本の領土だから守り続けるという決意を明確に示すことです。それは官房長官が記者会見で１００回表明すればいいという話ではないのです。海上保安庁、自衛隊の力をつけて、その力を背景に我々の領土は守るという決意を示す。これをやりながら対話を強化し、中国との衝突が起きないように危機管理プロセスを整えて、将来的に日中関係の妨げにならないように外交的に対応するということです。 日本が尖閣を守る態勢を強化しても、中国も日本以上のスピードで対応するでしょう。やはり外交的に処理するしかないということです。私の考え方は、１９７８年に鄧小平が言った「棚上げ共同開発」に戻ればいいというものです。様々な要素を比較衡量して総合的に考えれば、この案が日本にとってベストだと思います。 しかし、脇に置いただけですから、解決したわけではありません。日本がきちんと対応しなければ、将来は中国が別のことを言い出してくるでしょう。そうならないように、引き続き日本の安全保障の力を付けていかないといけない。ただ、共同開発することによって尖閣をホットスポットから外すことができるのではないでしょうか。 日本と中国の間に領土問題があるというのは国際的な常識になってしまいました。いま日本の外務省が話し合いのテーブルにつけば、領土問題の存在を認めたことになるので日本側に不利だという意見もあります。けれども、日本が中国と交渉のテーブルについても、国際法上は１００％日本の領土だという政府の立場はまったく変わりません。しかし、相手が何か言ってきたらそこに「紛争」はあるわけで、日中平和友好条約では、すべての紛争は平和的に解決すると書いてあります。中国側と話し合うことは、日中平和友好条約の要求するところでもあると思っています。 交渉に入る際に、中国側に条件をつけたらいい。尖閣諸島は日本が実効支配してきた領土であり、それでも中国の要求に応じて交渉に応じることにしたのであり、中国は公の場で、竹島と北方領土については韓国とロシアは日本との話し合いに応じるべきだという立場を表明しろと要求すること。つまり東アジアにおける領土問題の解決は話し合いによるという原則ないしルールを日中がともに打ち出すという仕掛けにする。そういうことを考えながら、尖閣問題についても打開の道を探ることは可能だろうと思います。 文化交流の役割 司会 本日は政治、経済、外交が中心のお話でしたが、最後に文化交流について、その役割と心がけなければいけないことをお伺いします。 中国で急速に改善する日本社会への印象 宮本 日本と中国は、本当に昔から文化および生活の交流を続けてきました。最近、こんな話を聞きました。日本が嫌いでずっと日本に行くのを拒否していた中国人が、２０１５年に初めて日本を訪れて奈良の法隆寺に行ったそうです。この方は建築の専門家らしいのですが、法隆寺の金堂や五重塔を見て「唐の時代の建物がそのまま日本に残っていた」と言って、感動のあまりその場に座り込んでしまったというのです。そして、彼の口から出たのは「ありがとう。よく日本に残しておいてくれた」という感謝の気持ちでした。それから、彼は日本贔屓に変わって、今や１年の半分ぐらいは奈良に住んでいるそうです。 日中にはそういう文化の繋がりがあるわけです。伝統的な文化や、いわゆる四書五経に始まる儒教の価値観は、むしろ日本のほうがきちんと定着しています。皆さん方がずっと持っておられる礼儀や倫理感のかなりの部分はそこから来ているわけです。この価値観が中国よりも日本において普及していると思う中国人も多いわけです。ですから、そういう分野での交流を深めていく。先ほど申し上げましたように、中国も国のあり方を国民が決めていくことになれば、中国国民には観光などで日本に来てもらって、日常生活も含めた広い意味での文化を広げていくことは、今の日本と中国の関係に非常に必要です。 そして、中国にはWeChatのサークルがありますから、１人が50人に配信したとしても一千万人の観光客が来れば５億人に伝わるわけです。そのおかげで、中国社会の日本に対する認識は急速に改善しています。中国の人たちが日本社会に対する敬意を持ってくれるわけです。先進的で現代的な東洋国家の一つのあるべき姿を今の日本の社会が示しているということです。私の中国の友人は「習近平さんには中国の夢があるかもしれないけれど、我々一般の中国人にも自分の夢がある。その中国人の夢は日本で実現されているのですよ」と言うのです。 公平な、安心と安全の、秩序だった倫理感のある社会というものを知って、中国の人たちは感動してくれているわけです。そういうものに触れ合うことによって、日本と中国の関係を安定させることができると思います。日本では当然のことながら、国民世論が政治を動かします。今日お話しましたように、中国でもそうなってきていますから、国民同士の直接交流、とりわけ広い意味での文化交流を強化していくことで、私は日本社会と中国社会は近づけることができると思っています。 福田康夫先生と私は、文化を通じた中国、ひいてはアジアとの関係強化ができないかと考えて、日本アジア共同体文化協力機構（ＪＡＣＣＣＯ）という組織を立ち上げて、一生懸命活動しています。先日も福田先生が中国に行かれて中国の要人に会って話をされました。どこかでＪＡＣＣＣＯという名前を目にされたら、応援をよろしくお願いします。 （終） （本稿は講演記録を講演者が修正加筆したものである。） セミナー出席者 金子 洋平(東京電力ホールディングス)・ 徳山 秀(東北電力)・ 藤森 誠(中国電力) ・阿部 雄介(四国電力) ・清水 海斗(北海道電力) ・北村 雅良(電源開発)・ 中尾 武彦(みずほ銀行)・ 太田 智之(みずほ銀行)・ 武藤 祐貴(みずほ銀行) ・坂口 喜啓(みずほ銀行) ・柴崎 晃(大和リース) ・福島 啓介(トヨタ自動車) ・鬼頭 宏季(東海旅客鉄道) ・横井 敦(東海旅客鉄道)・藤原 正彦(日揮) ・片桐 千博(日揮) ・小嶋 仁(オルガノ)・ 松木 俊哉(国際社会経済研究所) ・宇佐美幸一(川北電気工業) ・小田 茂一(大成建設) ・小橋 栄作(大成建設) ・郡司 清(安藤・間) ・太田 昇(安藤・間) ・松﨑 任宏(安藤・間) ・黒木 拓也(安藤・間) ・杉本 幸司(熊谷組) ・大熊 義夫(熊谷組) ・村橋 健一(熊谷組) ・町村 俊彰(前田建設工業) ・松永 浩(奥村組)・吉竹 功一(三井住友建設) ・今村 一紀(東亜建設工業) ・足立 徹(日本国土開発) ・見喜 一朗(鴻池組) ・大橋 裕寿(東洋建設) ・村岡 勝(株木建設) ・三浦 直之(株木建設) ・栗山 務(FEN) ・太田 一郎(富士古河 E &amp; C) ・野口 恭男(芝工業) ・網谷 勝彦(日本コンクリート工業)・ 渡邊 厚夫(富士石油) ・岡田 滋敬(鹿島石油) ・小野 真裕(鹿島石油) ・壹岐 素巳(海外電力調査会) ・森下 義人(海外電力調査会)

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