北村雅良

『公研』2023年5月号「めいんすとりいと」 五月の里山は命の輝きに満ちている。雑木林を形成するコナラやクヌギは柔らかな若葉をぐんぐん広げ、また一まわり大きくなろうと炭酸ガスを腹いっぱい吸って降り注ぐ太陽の光で養分をつくり始めている。その林床ではキンランたちが腐葉土の中から立ち上がり、木洩れ日を受けてこっちにもあっちにもと黄色いランプを灯して輝く。キンランはその可憐さから見つけるとつい持って帰りたくなるが、庭や植木鉢では育たない。コナラの根に外菌根を形成するラン菌と共生しないと養分が十分に得られないからだ。キンランの場合、炭素源の30～40パーセント、窒素源の約50パーセントをラン菌から供給されていると言われる。そのことを知らないハイカーが可憐な姿に出会って持って帰りたくなる気持ちはわからなくもない。花だけ摘んでいって根株を残しておいてくれれば来年もまた伸び出して咲いてくれるが、根こそぎ掘り採っていかれるとアウトだ。里山緑地管理者が「キンランを採らないで」と近くに立札を設置しても、却って気付かれて、一株くらいならいいだろうと盗る人は採る。 尾根筋ではヤマツツジたちがオレンジ色の花を枝一杯につけて歓び全開だ。私はこの花びらをパクンと食べる。ちょっと酸味があってサクサクとした歯ざわりが爽やかだ。野菜サラダに散らせば食卓の粋な盛り付けになる。花の根元には甘い蜜があって子供の頃はよく摘んでチューチュー吸ったものだが、今の子はやらないようだ。教える大人がいないのだ。遊びに来た孫坊主に教えたら「ほんとだ、甘いね！」と喜んだ。ただし、里山には無いが高原の牧場などに群生するよく似たオレンジ色のレンゲツツジには猛毒があるから気を付けないといけない。養蜂業者もレンゲツツジが咲くエリアには巣箱を持っていかない。牛や馬も有毒なことを知っていて食べないからレンゲツツジの群落は牧場内に美しく残る。 この時期ヤマツツジにはアゲハ蝶がよく来る。黄色と黒の縞模様のナミアゲハ、黒地に赤い紋様のクロアゲハ、褐色の地にオレンジ色の斑点が並んだジャコウアゲハ、メタリックなグリーンやブルーに輝く翅を煌めかせたカラスアゲハ…入れ代わり立ち代わりやってきて口吻を伸ばし花奥の蜜を吸う。アゲハ蝶類は吸蜜するときも羽ばたいたままで、花に止まって静止してくれないから撮影するのに苦労する。でもうまく撮れると躍動感があって、まさに生きているなあと我が写真ながら惚れ惚れする。 今年もまた命溢れる初夏の里山を歩いていると、遠くウクライナの地でいまだに殺し合いが続いていることに心が痛む。周りが戦争反対、人殺し反対を叫んでも、経済制裁を続けても、「特別な軍事作戦」を始めてしまった指導者たちは面子が立つ成果が得られないとやめるにやめられなくなっているようだ。国に攻め込まれて守る側には戦う理屈が立とうが、攻め込んだ側の理屈は誠に身勝手だ。１年以上も長引いてくると、世界の人々も情報疲れしてきて、彼の地で「殺し合い」というとんでもないことが行われている状況に慣れっこになってきているように見えるのが怖い。 相田みつをが、２００８年にあの独特な筆字で書いた詩を思い出す。馬鹿で身勝手な大人になる前に、子供たちに伝えたい。 い の ち あのね 自分にとって 一番大切なものは 自分のいのちなんだよ だから すべての他人の いのちが みんな大切なんだよ みつを Ｊ-ＰＯＷＥＲ（電源開発）特別顧問

冬に生きる【北村雅良】

いのち【北村雅良】

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いのち 【北村 雅良】

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