北海道電力

『公研』2023年12月号「私の生き方」 第 ６４６ 回 私の生き方 北海道電力名誉顧問 真弓明彦 まゆみ あきひこ：1954年北海道旭川市生まれ。79年北海道大学工学部電気工学科卒業後、北海道電力に入社。室蘭送電所を皮切りとして主に工務畑を歩む。岩見沢支店長、理事工務部長、常務取締役流通本部長、取締役副社長流通本部長などを経て2014年代表取締役社長社長執行役員に就任、19年から23年まで代表取締役会長。23年より名誉顧問。19年から23年まで北海道経済連合会会長を務める。 旭川の冬の寒さ ──１９５４年北海道旭川市のお生まれです。少年時代を思い返したときに、どの季節が思い浮かびますでしょうか。 真弓 旭川は上川盆地のなかにある街なので、夏は暑くて冬はとても寒いんです。夏と冬の気温差は、60度を超えると言われています。日本の観測史上の最低気温は、１９０２年１月25日に旭川で観測された氷点下41度で、その記録は未だに破られていない。もっとも、当時は観測地点が少なかったから、本当はもっと寒いところがあったのだと思いますが。そういう土地で育ったものですから、やはり冬の寒さが真っ先に思い浮かびますね。 旭川では気温がすごく下がると、学校の登校時間が遅くなったり、休みになったりします。当時、たしか氷点下19度以下になると10時始まりになって、氷点下24度を下回ると休校になった。これは朝６時のニュースの気温で決まるのです。小学生の頃、いつもは寝坊助のくせに、冷え込む予報が出ていた朝には６時前に目を覚まして気温を確かめていました。 学校が休みになると、友だちと連絡を取って遊びに行きます。母が丹念に編んでくれた毛糸の手袋を二つ重ねて、毛糸のズボン下を履いて表に出て行きます。氷点下30度を下回る極寒の世界ですから、今にして思えば命がけで遊んでいたようなものですね。 学校が休みになった日に、スキー場に行ったことがありました。ゲレンデはガラガラでしたから、存分に滑れると思い勇んで斜面に立っても、スキーは滑らず、つんのめる有り様。 ──なぜですか。 真弓 スキー板は、上からの圧力で雪が水になることで滑るんです。寒すぎると、雪に圧力を掛けても水にならずに凍った状態のままなので、滑っていかないんです。スキー板にワックスを塗ったくらいでは前に進みません。これはスケートでも理屈は同じです。 まったく滑ってくれないので、友だちと泣く泣くゲレンデを、スキー板を担いで歩いて下りたことがありました。寒すぎる日のスキーは、つまらない（笑）。 雪が積もった日に校舎の３階から飛び降りる ──想像を絶する寒さです。 真弓 これも小学生の時ですが、雪がたくさん積もったのを見計らって、木造３階建て校舎の３階の窓から飛び降りたこともあります。雪が１階の窓の上のほうまで積もったときに、肝試しのつもりで友だちと「２階の窓から飛び降りるか」という話になって、みんなで次々に飛び降りた。「これは楽しいな」と、今度は３階の窓から飛び降りた。 ところが、その様子を近所の方が見ていて、学校に通報されましてね。先生にしこたま叱られ、親が学校に呼ばれてね（笑）。冬の日の思い出です。 ──極寒の真冬でも楽しみはありますね。 真弓 短い夏にも楽しみはありました。旭川は海には面していないけれど、石狩川が流れていて友だちとよく泳ぎにいきました。泳ぐというより、川に飛び込んでいたのです。楽しかったけど、川で遊ぶことは学校では禁止されていました。 あるとき、友だちが川底にあったガラス瓶の破片で足を切ったことがありました。それで川で遊んでいたことが親に伝わり、ずいぶん叱られました。いずれもやんちゃな思い出ですね。そんなふうに、旭川のメリハリのついた特徴ある気候のなかで育ちました。 実家は製材会社を経営していた ──真弓という姓は珍しいですね。 真弓 阪神タイガースの監督を務められた真弓明信さんがいましたので、彼の「親戚ですか」とよく聞かれました。けれども、親戚ではありません。調べてみると、真弓姓は三重県に多いようですが、父は兵庫県姫路市のとなりの福崎町の出です。ルーツを探り切れている訳ではありませんが、名の由来は「弓の名手」からとの言い伝えを聞いたことがあります。 ──ご実家のお仕事は。 真弓 父は製材会社を経営していました。高等小学校を卒業してから、先に旭川に来ていた伯父を頼って北海道に渡ってきました。伯父は製材会社を経営しており、父はそこで木材業を学んだわけです。中愛別町──スキージャンプの高梨沙羅さんを輩出した上川町の隣町です──に製材工場を持っていました。 母は旭川市立高等女学校の卒業ですが、結婚後しばらくは専業主婦でした。母の先祖は、私の４代前になりますが、香川県高松からの屯田兵入植者です。 ──福崎に帰省されることもあったのですか。 真弓 もちろんありました。祖父がいましたから、私も何度か一緒に行きました。福崎の父の実家は炭焼きをやっていて、真弓燃料店という店を営んでいました。主に炭を扱っていましたが、石油や灯油も出始めた頃です。 祖父が元気だった頃は、毎年夏になると旭川に避暑に来ていました。夏休みの間、祖父と一緒に遊んだ楽しい思い出がたくさんあります。 ──北海道で一から木材業を始めたというより、福崎時代から木に関係のあるお仕事をされていた。 真弓 木には縁があったということですね。北海道では炭焼きではなくて、製材をしていました。山に行って松などの原木を切り出してきて、皮を剥いてある程度の薄さにし、家などの建築用の材木として販売店に回していく商売です。 ──お母様はどんな方でしたか。 真弓 教育熱心でしたね。ずいぶん習い事をさせられました。小学校６年間はピアノをやっていました。それから習字に算盤、学習塾も２カ所行っていました。今思えばとてもありがたいことですが、当時は遊びたかったから、それがいやで仕方なかった。躾は厳しかったですね。 一方で、男３人兄弟でしたが、子供たちに手が掛からなくなると、祖母の呉服店を手伝い、反物の訪問販売を行うなど働き者で、お陰で不自由な思いもせずに、学生生活を終えることができました。 親の心子知らず、苦労ばかり掛けていたと93歳になる母親の顔を見ながら、当時を思い出し感謝しています。 自分は北海道に残って働く ──将来についてはどのようにイメージしていましたか。 真弓 周りにいる人たちに影響を受けて、目標もいろいろ変わっていった感じでしたね。親戚に航空会社に勤務している方がおり、パイロットに憧れた時期もありました。それから私の親友が医者の息子で、家に遊びに行った際に、彼のお父さんからいろいろな話を聞いたりすると、医者もよいなと思ったりしました。 医者になりたいという漠然とした思いは、その後に具体的な目標になっていきました。私は３人兄弟の真ん中なのですが、兄が医科大学に合格したことで、高校時代には私も本気で医者になりたいと考えるようになりました。 その根っこには、自分は北海道に残って働くべきという思いがありました。あまり深く考えていたわけではありませんが、父や母方の先祖は北海道にやって来てから、たいへんな苦労をしてきたことを知っていました。 ですから、自分が本州に行って働くのは違うだろうと感じていました。兄も道内の医科大学に進んで、北海道で医者をやるということでした。私も北海道のために仕事をしたいとその頃から決めていたところがありました。 ──東京などの都会に憧れることはなかったのですか。 真弓 むしろ北海道の大自然の雄大さを誇りに思っていました。毎年のようにやってくる祖父と一緒に大雪山や洞爺湖などの観光地をめぐりましたが、「素晴らしい。すごい！」と感激しているのをずっと見ていました。これだけ喜んでくれるのだから、素晴らしいのだなと思うようになりましたね。 逆に福崎に行くと、向こうの人から「北海道は良いところらしいな」という話を聞いていました。北海道に残るという思いと、元来アウトドア派だったので、都会に憧れることはなかったですね。 医学部への進学を断念 ──医学部志望ということでしたが、北海道大学の工学部に進学されています。 真弓 医学部をめざしたのですが、結果２年間浪人することになりました。これ以上は親にも迷惑を掛けられないので、そこで医者の道は断念しました。 当時の国公立大学は一期・二期校制でしたから、最後の挑戦では一期校で北海道大学の理類を受験して、二期校で旭川医科大学を受験しました。北大は合格したものの、旭川医科大学には縁がありませんでした。 北大での学部・学科選考に際しては、企業就職を考えると工学部だと考えましたが、学科として土木・建築か電気工学、いずれを選ぶべきかに大いに悩みました。結局は、当時コンピューター技術の進歩、インテルやマイクロソフトの立ち上げなどが話題となっていたこともあり、電気に対する興味が強まり、電気工学に進むことにしました。 ──ご実家を離れての札幌での暮らしはいかがでしたか。 真弓 １９７３年に高校を卒業し札幌に出てきましたが、医科大学に進んでいた兄がすでに札幌に出ていたので、私も浪人・学生時代は札幌で兄と二人で生活していました。１９７２年に札幌冬季オリンピックが開催され、これを契機にして地下鉄も開通して、札幌の街がどんどん発展して都会になっていったときです。観光客も増えて、とても賑やかな時代でしたね。 「あなたが一番、北海道電力に合っている」 ──なぜ北海道電力を志願されたのでしょうか。 真弓 先ほどお話ししたように、北海道で働くことを大前提に考えていました。ただ、電気工学科の先輩たちの就職先を見ると、道内の就職先は限られていました。新日本製鐵（現在の日本製鉄）や製紙会社、そして北海道電力などです。 北海道電力は道内全域に電気を供給し、北海道全体をエネルギー面で下支えしている会社です。電気工学科出身の先輩も数多く、いろいろな話を伺いながら私は北海道電力に大きな魅力を感じ、希望を出しました。 当時、北海道電力側からは北大の電気工学科に４人の求人を出していて、就職担当の教授からは４人の枠について「３名を大学院生、１名を学部生とする」と聞かされていました。私は学部生でしたから、１名きりの枠をめざさなければならなかった。 電気工学科62名の内、北海道電力を希望していた人が６、７名いたと思います。自分よりも成績が良い人もいたと思いますが、どういうわけか私が選ばれることになりました。 ──北大の電気工学科ご出身でも狭き門なのですね。 真弓 北海道電力としては、毎年採用する技術者の数を決め、大学側に推薦状の提出を求めていたのだろうと思います。就職担当の教授は、「日頃の態度、勉強の内容、性格も考慮するとあなたが一番、北海道電力に合っていると思った」と言っていました。 ただ、なぜ北海道電力向きの性格だとされたのか、その意味は未だによくわからないでいます（笑）。 原点となった室蘭送電所での勤務 ──１９７９年に北海道電力に入社されます。最初はどういった仕事から覚えていくものですか。 真弓 ４月１日に入社式を終えると、１週間ほど導入教育という社会人としての一般教育を受けて、それぞれの現場に配属されます。私の最初の配属は、室蘭市にある室蘭送電所でした。送電線の保守管理を行う20名弱の小さな事業所ですが、当時は技術的な研修は一切受けずに配属されました。 事業所には夕方に着きましたが、所長から「真弓くん、早速で悪いけど明日の朝、事故巡視に入ってもらうから」と言われました。巡視の意味もわかっていませんでしたから何をするのか見当もつきませんでしたが、翌朝事務所へ行くと「身仕度して車に乗ってくれ」と。当時、主任だった先輩と一緒に道具をジープに積み込み、山へ向かいました。 事故巡視とは、送電線の事故が起きた箇所を見つけ、設備の異状有無を確認する仕事でした。ちょうど私が室蘭に着いた日に、山間部の送電線で不具合が起きていたのです。送電線を見ながら、どこに事故の痕跡があるのか、異状はないか、それを発見しに行くわけです。 これ以上はジープでも入っていけないところまで山に入っていくと、先輩は「ここからは歩くぞ。真弓くん、かんじきを履いてくれ」と言うのです。４月ですから、そのあたりはまだ膝ぐらいまで雪が積もっていました。スキーは散々やりましたが、かんじきを履くのは生まれて初めての経験です。 雪をこぎながら送電線の下を歩きましたが、設備を見るのも初めて、事前研修もないなかで、どこを見てよいかもわからなかった。先輩はずっと上を見ながら、電線、支持物、碍子などの設備に異状がないかどうか確かめていましたが、私は慣れないかんじきで、雪の中を歩いて付いて行くのに必死で、ずっと下ばかり見ていました（笑）。それがデビュー戦でした。 毎日がＯＪＴで、先輩から現場でいろいろ教えてもらううちに、仕事の意味と内容を理解していきました。 室蘭送電所には１年半勤務しましたが、本当にいろいろな経験をさせてもらいました。80メートルぐらいある鉄塔を登り、身を乗り出しての設備点検もしましたが、今考えると自分でもよくやったと感心しますね。 ──恐怖で足が震えそうです。 真弓 当時は鉄塔の昇降時には、命綱を付けない時代だったのです。もちろん点検や作業するときには命綱を付けますけどね。 あるとき送電線に雷が落ちて、街の一部が停電してしまったことがありました。事故が起きた箇所をすぐに見つけ出して、そこを修繕する。そして直ったという報告を出してから、電気を流すことで再び街の灯りが点く。 その一連の対応を目の当たりにした時には、日々電気を届けることの大変さ、現場の責任感と技術力、そして苦労があって電気が供給されていることを知り、入社して本当によかったと感動したのを覚えています。そして、入社するまでは、スイッチを入れれば電気が点くことは当然のことだと考えていたのですから、今後の自分が電気の供給を支えることができるのかと不安にも感じました。 それから社員や工事業界だけではなくて、鉄塔を立て、送電線を張らせていただいている地主さんもいるわけです。地主さんにお願いして土地をお借りしたり、譲っていただいたりして電気を送る設備を建設しています。いろいろな方の支えやご理解があって電気をお届けできていることも知りました。 こうした経験を通じて、現場の責任感と技術力が会社を支え、さらに北海道を支えているということに誇りを持つことができました。社会人生活を通じてその誇りを持ち続けることができたという意味でも、室蘭送電所での勤務は私の原点だったと思います。 民営化の前年に研修生としてイギリスへ ──その後はどのような業務に携わったのですか。 真弓 私は技術職で入社して技術系の工務部に在籍していましたが、ある時期からは事務系の仕事も経験することができました。人事労務部門での採用業務、経営管理部門での人員管理、社長室での秘書業務などに携わりました。 若い頃の仕事のなかで特に印象に残っているのは、昭和が終わりを告げた１９８９年にイギリスのロンドンに赴任したことですね。海外電力調査会の研修生として、半年間イギリスに行き勉強する機会をいただきました。 イギリスは１９９０年から国営電力の民営化が始まったので、その前年になります。国営発送電局（ＣＥＧＢ）の技術系の皆さんと半年間いろいろな意見交換をしましたが、彼らは自由化を前にして大きな不安を持っていたんです。「自分たちが愛着を持って守ってきた設備が今後どうなっていくのだろうか」「自由化となると保守・メンテナンスも疎かになってしまうのではないか」といった声を聞きました。それを聞いて、電気を守り、送っている現場の方々の思いは世界共通なのだといたく感動したことを記憶しています。 半年という短い間でしたが、この海外研修は欧米人の合理的な考え方や個を重んじる生活、文化を知るということも含めて、私にとっては人生観を変えるような大きなインパクトがありました。 泉誠二社長の秘書を２年間務める ──電力マンの心意気は世界共通なのですね。 真弓 結果的には、私が社長を務めている時に日本でも電力自由化が大きく進み、ロンドンでの経験を思い出すことになりました。 その次に私の会社生活のなかで転機となったのが、社長の秘書になったことですね。当時の社長は泉誠二さんで、１９９５年から２年間仕えました。妻といるよりも社長といる時間のほうが長かったですね。今のように携帯電話やノートパソコンでやり取りできる環境になく、国内外出張も含めてずっと一緒にいました。 社長ですから、細かくご指導いただいたことはなく、自分の姿を見ていなさいという感じでしたが、とにかく思いやりがあり、「人に親切・丁寧に接しなさい」と言われたことを思い出します。非常に律儀で礼を重んじる人でした。 間近で経営トップの立ち振る舞い、人との接し方、言葉の選び方など多くのことを学び、そして幅広い分野の方々とのお付き合いなども、現在の私の大きな糧になっています。 純揚水式の京極発電所 ──電源のベストミックスや電力ネットワークのあり方は時代の環境に応じて変化していくものですが、真弓さんは将来の電力の環境をどのように思い描いていましたか。 真弓 私自身は工務部にいて、送電線、変電所などを建設し保守するなど、主に電力ネットワークの仕事に携わってきました。正直に言えば、電源について思いをめぐらせることはあまりなかったのです。 私が電源のベストミックスを意識するようになったのは、経営幹部になってからで した。エネルギー資源に乏しい日本におけるＳ＋３Ｅについて常々考えることになります。具体的に計画に携わった電源としては、二つの新たな試みがありました。一つは、ＬＮＧを燃料とした火力発電所の建設で、当時北海道にはＬＮＧ火力はありませんでしたが、石狩湾新港発電所１号機は２０１５年に準備工事に着手し、２０１９年２月に運転を開始し、電源の多様化を図ることができました。 もう一つは、純揚水式の水力発電所です。工務部長のときに京極発電所の建設を上程しました。揚水式発電の発電機には定速と可変速の二つの種類があって、可変速は負荷に合わせて回転速度を柔軟に変えられます。当初の計画は、定速揚水を採用することになっていましたが、私が工務部長に就いた時に可変速への変更を経営会議に提案しました。 ──再生可能エネルギーの普及で、揚水式水力発電の調整力は脚光を浴びるようになっていますね。 真弓 揚水式発電は電力需要の少ない夜間に上部調整池に水を汲み上げて、電気が多く使われるときにそれを落として発電します。可変速は発電出力の調整の幅を細かく変化させられる利点があります。当時すでに太陽光や風力を中心とした再生可能エネルギーの普及拡大の話が出始めてきていましたから、これからの時代に不可欠と考えました。 社内的には反対の声も含めてさまざまな意見がありましたが、メーカーや工事業界の支援なども受け、何とか理解を得て、京極発電所は可変式揚水発電所として建設され、現在、電力の安定供給と再生可能エネルギーの導入拡大に貢献しています。 新北本連系設備をつくる計画を立ち上げる ネットワーク面では、工務部長時代に北海道と本州を結ぶ新しい直流連系線である新北本連系設備をつくる計画を立ち上げています。それまでは、電源開発さんの設備として北本連系設備がすでにありました。津軽海峡を海底ケーブルで結ぶものですが、これにより60万ｋＷを互いに融通することができました。ところが、不具合なども出始めてきていましたので、万が一ここが使えない事態になると、電力安定供給や信頼度の面で大きなリスクを抱えることになります。そのリスクを考え、新しい連系設備建設の必要性を提案し、青函トンネルを使用する新たなルートを設けることになりました。30万ｋＷの新たな直流連系線が、２０１９年３月に完成します。 北海道胆振東部地震、そしてブラックアウトが発生したのは２０１８年９月６日です。先ほどお話しした石狩湾新港発電所と新北本連系設備はまだ完成していませんでした。いろいろな想いが交錯していたのを思い出します。 北海道内における電源の適正配置も含めて、今後もいろいろなリスクを想定しながら、電力の安定供給を確実なものにするために課題を解決しなければなりません。送配電会社である北海道電力ネットワークは、現在新北本連系設備について２本目の工事を進めていて、２０２７年度末に完成予定です。これが30万ｋＷですから、既存の連系設備と合わせると１２０万ｋＷになります。 そして、国でもマスタープランという電力系統の強化に向けた構想について議論されています。まだルートは確定していませんが、２０３０年までに道央と本州を長距離海底ケーブルで結ぶ計画があります。 今後大きく増えるであろう再生可能エネルギーの電気を本州に送ることが主な目的とされていますが、実現すれば、北海道と本州の連系容量を大きくすることで、有事の際に互いに電力を融通することも期待できます。 電力一丸となって復旧に向けて取り組んだ東日本大震災 ──東日本大震災が起きた２０１１年３月11日はどのようなことをされていましたか。 真弓 工務部長時代でしたが、地震が発生したときは、本社で打ち合わせをしていました。尋常ではない規模であることがすぐにわかりましたから、北海道電力管内の設備に異状がないかどうか、即座に確認を行いました。 あの時は、地震の影響で北本連系設備が一時的に停止する事態が発生しましたが、そのあと異状は解消されました。電気を送れるようになって、その北本連系設備を通じて、東京方面に電気を送り続けました。 さらには、発電機を搭載した移動電源車を東北電力・東京電力向けに多数送り込み、使っていただきました。これほどの大規模な広域連携での応援は、東日本大震災のときが初めてでした。本当に電力一丸となって復旧に向けて取り組むことになり、その後の連携強化に繋がっていくことになります。 当時、東京電力管内では計画停電が実施されました。その後、北海道内でも原子力発電所である泊発電所の運転が停止していくなかで、冬の需給逼迫に際して計画停電が必要になるかもしれないといった議論が行われました。幸いにして計画停電には至りませんでしたが、東日本大震災の経験を通じて、大規模災害が引き起こす大きなリスクに対処するためのさまざまな方策の検討がスピード感をもって進められていきます。 我が国の電力の安定供給や、より良い電力系統の構築に向けてはどうするべきなのかという議論が盛んになり、それが電力システム改革にも繋がっていくことになります。 ──その後、一連の電力システム改革が推し進められることになりますが、どのように見ていらっしゃいましたか。 真弓 東日本大震災発生を通じて、起きてしまったことの解析を行ったうえで、今の電気事業のあり方がこれで良いのだろうかという議論や電力自由化をさらに進めるという選択肢が出てくるのは、当然のことだと思います。当時は、電力会社としてもその議論にしっかりと関わっていかなければならない状況にありました。 安定供給を第一義にしたシステム改革であるべきだった ただし、システム改革が進められるにしても、電力の安定供給を第一義にした改革であるべきだろうと考えていました。我々の原点は、やはり電力の安定供給と低廉な電気料金の維持で、今でもそれは変わりません。日本の電力会社はエネルギー資源が乏しいなかで、安定的に電気を送り届けています。しかも、欧米に比べても電力の品質はとてつもなく良く、それをいまさら悪くするわけにはいきません。 これからも安定供給、電力の品質と低廉な料金を維持していくため、ひいては地域やお客さまのために、電力会社としてやるべきことや責任が当然あるわけです。電力システム改革は、そこを第一義に考えた改革であるべきです。 私が社長になってからも電力システム改革は、第一弾、第二弾、第三弾と進行していきましたが、我々が一貫してこだわってきたのは、やはり安定供給です。その前提にあったのが、ベースロードとしての原子力発電所の早期再稼働でした。結果として、北海道電力の泊発電所をはじめ、多くの原子力発電所の再稼働を果たせていません。 そうした状況下で、２０２２年２月にロシアのウクライナ侵攻が発生しました。資源価格が高騰して、電力の需給逼迫や料金値上げなどの事態が起きています。こうしたリスクにも対応できるような電力システムであることが必要なのだろうと考えています。 電力システム改革や電力自由化は、欧米の例に倣って進められた部分も多いわけですが、周辺国と送電網のネットワークが構築され、資源もある欧米と日本とでは前提となる環境がまったく違います。そのことを踏まえてどうすべきなのか、という議論や検証こそをもっとさまざまな角度からやっていくべきと、足元の状況が示していると思います。ＦＩＴ（再生可能エネルギーの固定価格買取制度）についても、同じことが言えるのではないかと考えています。 結果論と言われるかもしれませんが、国も有識者も、さらには電力会社も、我が国が脆弱なエネルギー供給構造であるという事実こそを議論の俎上に載せ、さまざまなリスクを想定し、国益に資するシステムを検討し、進めていくべきではなかったかと個人的には思っています。 ──電力従事者の考え方はほとんど聞き入れられることはなかった印象があります。 真弓 今は経済産業省に限らず、さまざまな省庁で施策を決めていくときには、審議会や委員会などの場に、有識者や事業者が参加して議論をして、パブリックコメントにかけて精査していく流れが普通となっています。ですが、当時の一連の電力システム改革はスケジュールや方向性に重きが置かれ、進められた印象があります。 我々は電力供給のプロです。技術的な課題も含めてさまざまな考え方や方法を提示する役割もありますし、責任も有しています。議論には欠かせない当事者と思っています。 取締役社長に就任 ──２０１４年９月に取締役社長に就任されます。重責にプレッシャーを感じたこともあったのでは。 真弓 私が社長になったのは、突然のことでした。川合克彦前社長が体調を崩されて、社長を続けることが難しくなったために、自分にその役目が回ってきたのです。副社長の経験も９カ月くらいしかなかったので、青天の霹靂でした。 当時の会長、社長からお話があり、少し時間をもらって考えて、引き受けることにしました。社長業の重みを想像する時間もないなか、社長就任の記者会見を実施し、記者とのやり取りを通じて、社長の責任と発言の重さを実感した記憶があります。 会社はたいへん難しい状況でした。厳しい収支・財務状況のなかで、２度の電気料金の値上げをお願いすることになりました。道民の皆さまへの影響を考えると、泊発電所の再稼働や経営の効率化をはじめさまざまな課題に、北海道電力グループ一丸となって真剣に取り組んでいかなければなりません。それをどうやって実践していくのかを考えると、身が引き締まる思いがしました。 ──社長、会長時代に意識していたことは。 真弓 社長に就任する以前から部下には、「倫理観を常に持ってほしい」と繰り返し話をしました。入社当時から感じていたことですが、現場の一人ひとりが行っている作業が、北海道電力として電気を送り届けるという役割に繋がっています。自分がやっていることの成果が、まさに目の前に出てきているわけです。 「技術者としての矜持」という言葉があります。その矜持を支えるのは、もちろん能力や技術力も大事ですが、それ以上に倫理観なのだと私は思います。技術者に限らず社員や業界の方々が間違ったことをやってしまうと、たいへんな事態にも結び付きかねません。 いわゆる企業の不祥事は、いつの時代にも起きていますが、一人の社員が一つ道を誤ることで、社会にも影響を与えてしまうような大きな事態に発展することもあり得ます。 工務部長時代には、社員教育のなかに技術者の倫理観を培うためのプログラムを導入しました。技術職を離れて役員になってからは、事務職にも、「顧客からの信頼=倫理観×技術力」とお話しました。 それから、一つひとつ丁寧に、物事の対処にあたり、人とも接することを常に心がけました。私は「至誠惻怛（しせいそくだつ）」という言葉を大事にしています。本を読んで知ったのですが、誠意を尽くして、いたわりの心を持って人に接すると、必ず道は拓けるという意味です。 例えば、ゴミを一つ拾えば一つだけ綺麗になります。小さなことでも一つずつ誠意を持ち積み上げていくことで、大きな成果に繋がっていきます。社員の皆さんにはそうしたお話をしました。 ブラックアウトへの対応 ──２０１８年９月６日に発生した北海道胆振東部地震により、苫東厚真発電所の機器の一部が壊れ発電を停止し、複合的な要因により北海道全域で全域停電（ブラックアウト）が発生しました。こうした状況が起こり得る脆弱性があることは、地震以前から心配されていたのでしょうか。 真弓 工務部ではさまざまなリスクを想定し、ブラックアウトになった時に、どうやって電力を復旧させていくのかという訓練もやっていました。この事象発生から電源を立ち上げていくまで、早いところでは半日で対応することができましたので、そこは訓練の成果がきちんと出たと見ています。想定していなかったわけではなく、起こり得る事象と理解しつつも、リスクは極めて小さいだろうという認識でした。 送電線の停止を含めいろいろな事象が重なったために生じたとはいえ、このような事態が起きてしまったことについて、道民の皆さまには大変なご迷惑とご心配をお掛けし、申し訳ない気持ちで一杯です。 ──かつてない事態ですから、混乱が生じてもおかしくありません。事態に冷静に向き合うことはできましたか。 真弓 私はネットワークに関する仕事に長く携わってきましたから、規模は別にして、いろいろな系統事故に遭遇してきました。雷や台風、暴風雪などに起因する災害によって、設備に事故が起きることは常にあります。有事の際の対処については、経験を積んできたと思います。 ですから、「全道で停電が起きています」という報告を受けたときも、ある意味ではごく冷静に起きている状況を把握することができました。伝えられてくる情報を踏まえて、次にどういう手順により何をすべきなのか、部下とも落ち着いて話をすることができたと思っています。 社長として、国も含めた関係機関への報告、それから支援の受け入れについても対応しました。初動対応の後には社内に対策本部会議を立ち上げ、そこに国からも応援に来ていただきました。また、北海道庁にも国の支援部隊が入りました。ブラックアウトが解消されてからも、相当大きな組織を形成して、その後の対応にあたることになりましたから、そこでの連携を強化することも私の役割でした。 とにかく、本格的な冬を迎える前に、苫東厚真発電所の運転再開に結び付けなくてはなりませんでしたから、数カ月の間は対策本部会議での情報・現状確認、やるべきことの選別や報告事項の吟味、事象解析と再発防止策などについて、かなり細かな指示を出していました。 完全復旧への道筋 ──ブラックアウトから完全復旧に至る道筋をご説明願います。 真弓 火力発電所自体も、運転を行うには電気が必要になります。ですから、北海道全体で電気がなくなった状況のなかで、発電所を動かす電気が必要となりますが、まずは、ブラックスタート可能な水力発電所において電気を起こし、それを種火にして、大きな発電所に順次電気を届けていくということが、復旧に向けた手順になります。具体的には、水力発電所で種火をつくり、送電線を通じて石狩川沿いに立地する火力発電所の砂川発電所や奈井江発電所に電気を送っていきました。 こうして発電を再開させていったわけですが、その途中には変電所があり、そこに電気が届いて一般家庭で電気が一斉に使用され、送る側の電気が使われてしまうことになると、発電所の発電機のほうが過負荷でダウンしてしまい、再びブラックアウトになってしまいます。ですから、次の発電所を動かす分の電気もつくって、途中の電力負荷を制限しながら、またその電気を次の発電所に送っていくかたちで電源の復旧を図っていきました。 普段は、電気の需要と供給は天秤が釣り合うようにバランスをとっています。ところが電源が喪失して発電量が減ったり、需要が増えたりすることで、そのバランスが損なわれると、天秤はどちらか一方にガタンと振れてしまうのです。 ──電気の需要と供給を合わせていくのは、とても難しいように思います。 真弓 例えば、変電所から一般の工場に流れる電気の量は、だいたいわかります。ですから、ここの電線を繋いだらどのぐらいの電気が使われるかは想定できます。東日本大震災の時に東京電力が計画停電を実施したケースでは、この変電所のフィーダー（給電線）を停めると数千ｋＷの需要が減ることになるといった想定を積算することで、全体をバランスさせたわけです。 ブラックアウトからの復旧も計画停電と同じようなところがあります。例えば、旭川に電気が届き始めて、その先の町にも電気を送っていくとします。この場合は、まずはその先の町で使用される電気の量を想定します。そして、それに合わせた供給がなされるように、変電所で調整します。「この変電所のこのフィーダーを入れても、使用される電力量は供給量を上回らないので大丈夫だ」と推定できるのです。 溢れる責任感と使命感に感謝 ──水力発電所が種火になったとのことですが、本州から電気を送り種火にすることはできなかったのでしょうか。 真弓 電源開発さんの北本連系設備は、北海道の電気が停まると運転できない仕組みになっています。ですから、あの時は北海道の電気がある程度回復するまで北本連系設備を通して本州から電気を受けることはできなかったのです。新しく北海道電力がつくった新北本連系設備は、電気がなくても融通し合えるシステムになっています。 ──批判の声も寄せられたと思いますが、二日間で復旧できたことは見事だったとも言えます。 真弓 現在社長を務めている齋藤晋君は、ブラックアウト時は苫東厚真発電所の所長でした。彼からは「寝ている時に家のタンスが飛んできた。一つ間違えたら死んでいたかもしれない」と聞きました。夜中でしたからね。また、当直の発電所職員からは、「死を覚悟するぐらいの揺れがあった」とも聞きました。 職員たちはそういうなかで、命からがら身の安全を確保したのもつかの間、すぐに発電所に駆け付けたわけです。当然、発電所だけではなくて、ネットワークや関連会社の人も、設備の点検のために即座に現地に入っています。あのあたり一帯は、地すべりや陥没が起きましたから、本当にたいへんな状況のなかで復旧にあたることになりました。 もちろん我々だけではなく、応援に来ていただいた関連会社やメーカー、国や自治体の皆さまにも本当に必死になって復旧に向けて取り組んでいただきました。停電が起きたことで、批判があるのは承知のうえです。けれども、それ以上に激励の声がたくさん寄せられました。当初はTwitter（現Ｘ）やFacebookといったＳＮＳを通しても激励のメッセージが入りました。それらを胸に置きながら対応にあたりました。 電気が点いた後には、「電気のありがたみ」について感謝のお言葉をたくさんいただきました。そうした声を聞いたときは、恥ずかしながら社長室で涙を流しました。道民の皆さまにも、電気の大切さを感じていただけていることがよくわかりましたから、その後も頑張り続けることができたのだと思います。 地震だけではなくて台風や暴風雪のときも同じように、故障が発生すればすぐに復旧にあたっています。現場に向かうことさえも危険な状況で、極めて厳しい気象条件下、懸命に復旧作業にあたる社員や工事業界の皆さまには、本当に頭が下がる思いです。本当にさまざまな場面で、責任感と使命感を抱き、電力の供給に向けた必死の努力がなされているわけです。 泊発電所の再稼働に向けて ──泊発電所が稼働していればブラックアウトは回避できたのではないかとも思いますが、再稼働に向けた現在の状況は？ 真弓 泊発電所の再稼働に向けては、ハザード側の審査で基準地震動が決まりましたから、残りは津波と火山の噴火による影響の２点に絞られてきています。10月の審査会合では、地震に伴う津波と地震以外の要因に伴う津波の組み合わせのうち、水位上昇側（津波高さ）を説明し、原子力規制委員会から「概ね妥当な検討がなされている」との評価をいただきました。 今後、津波の組み合わせ評価の水位下降側の評価結果はじめ、火山や防潮堤設計方針などを丁寧に説明しご理解いただけるよう全力を尽くし、早期の再稼働に繋げていきたいと考えています。 東日本大震災以降３度目の電気料金の値上げというかたちになっていますので、泊発電所の再稼働を果たし電気料金の値下げに結び付けていくことが、我々の大きな目標になっています。今は審査への対応に全力を傾けていますが、新設する防潮堤についても早期に本格着工できるように準備を進めています。 今年の春には、次世代半導体の量産をめざすラピダス社の工場が千歳市に建設されることが決まり、９月に着工しました。ラピダス社とそこに付随してくる企業に対する電力供給という面でも、やはり泊発電所の再稼働は必要になってきます。１日も早くそれを実現できるよう全力を挙げて対応していくことに尽きます。 北海道には千載一遇のチャンスがきている ──北海道経済連合会会長も務められましたが、北海道の活性化に向けたビジョンをお聞かせ願います。 真弓 北海道の人口は、全国を上回るスピードで減少が進展し、少子高齢化も進んでいますが、これは、生産年齢人口の減少を意味し、「生産や消費の大幅減少」「インフラ・交通・住民サービスの低下」などのさまざまな課題の顕在化に繋がっていきます。つまり、このままでは地域の存続が危ぶまれ、「望ましくない北海道」の姿になってしまうという危機感を、北海道全体で共有しなければ、との思いを持っていました。 また、私が北海道経済連合会の会長に就任して間もなくコロナ禍に見舞われ、北海道の経済・産業は大変な打撃を受け続けましたが、一方で、コロナ禍を契機に、「東京一極集中の是正」や「ＤＸの加速」、そして「カーボンニュートラル」などのパラダイムシフトともいえる変革の動きが生じてきています。これらは企業移転や移住、ワーケーション、脱炭素社会の実現など、北海道の持つ豊富なポテンシャルを活かす絶好の機会だと、前向きに考えることもできます。 ２０２１年６月に、北海道経済連合会では、北海道の明るい未来をつくるため、長期的な視点に立ち「望ましい北海道」をイメージし、今後の取り組みの方向性を取りまとめた「２０５０北海道ビジョン」を公表しました。ここでは、北海道が抱えるさまざまな諸課題を解決し、北海道の価値と魅力が最大限に引き出されている地域社会を、産官学民挙げたオール北海道で創り上げていくべきと訴えています。 ──道東は人口減少も著しい印象があります。 真弓 道東だけではなく、北海道全体で人口減少が進み、その影響で地域の産業自体が衰退してきていることは否めません。 私は国土交通省国土審議会の北海道開発分科会計画部会長も務めています。今は第９期の北海道総合開発計画案が成案となり、来年３月までに閣議決定される見通しになっています。 この計画でも、食料とエネルギーという今の日本が抱えている課題を北海道の力で解決するビジョンを提示しています。特にロシアのウクライナ侵攻の影響によって、資源や食料の価格が高騰していますから、この二つの課題を解消することは極めて重要になっています。 それを実現するための方策としては、やはり生産現場を支えるリアルな居住空間をきちんと維持していくことだろうと考えています。それにはデジタルの力を借りるなどの取り組みを積極的に進めていかなければなりません。 いずれにしても、道内経済や産業を活性化させ、我が国に貢献する北海道を創り上げていくためには、国そして道内の産官学民連携による「オール北海道」体制での取り組みが必要だと思っています。皆で危機感を共有し、北海道のことを真剣に考え、行動し、小さいながらも実績を積み重ねていくことが不可欠です。 また、先ほどもお話ししたようにラピダス社も進出してきますから、半導体産業を軸に北海道の産業構造自体が大きく変わってくる可能性が出てきたと思っています。北海道には千載一遇のチャンスがきています。この追い風をしっかりと捉えて、いろいろな手を打っていかねばなりません。 「義利合一」の理念を常に意識する ──最後に公益事業に携わる読者にメッセージをお願いいたします。 真弓 渋沢栄一氏は「義利合一」という言葉を使っていましたが、公益事業に従事する者は常に意識すべき考え方だと思います。つまり、利益を追求することは大切だけれども、それを独占してはダメで、社会への還元を図っていく会社が信用され、安定していくとの考え方です。 北海道電力の経営理念の一つに「地域への寄与」とあります。これまでも、「地域社会の持続的発展なくしてほくでんグループの発展はない」との想いのもと、さまざまな事業を展開し、地域社会の発展と文化の創造に向けた取り組みを進めてきました。 私自身、社長として最終的に決断する場面で、時に拠り所としてきた判断要素の一つは、「これは本当にお客さまのため、地域のためになっているのか」でした。これからも地域の皆さまに支えていただいている会社として、この「義利合一」の理念を大切にして欲しいと思います。 北海道電力は創立から70年が経ちました。70周年記念事業としてさまざまな取り組みを行っていますが、若手社員もＳＤＧｓを勉強して小学校に出向いて、子供たちにＳＤＧｓをわかりやすく説明し、勉強してもらう取り組みを進めています。 頼もしい限りですね。 ──小さい頃に学んだことは長く記憶に残りますね。 真弓 今の私の大きな関心事の一つが教育です。北海道に生まれた 子供たちに、自分たちが住む地域の宝物はなにか、どういう産業や企業があるのかを知ってもらい、そのなかで自分は何ができるのかを考えてもらいたいのです。学校任せの教育から、「地域が子供・学生を育てる」との考えに立ち、地域の自治体・企業そして産業などが協力し、地元を学び、地元をよく知る子供を育てていくことが、持続可能な地域づくりのために大切だと思っています。 公益事業として地域社会で営みをさせていただいている立場として、社会のためにできることはたくさんあります。小さなことから始めていけば、それが北海道を次第に豊かにし、さらには国全体の発展にも貢献していくことになるはずです。 ──ありがとうございました。 聞き手 本誌： 橋本淳一

北海道の発展に尽力する【真弓明彦】