夏の人事 – 公益産業研究調査会／koken

『公研』2023年5月号「issues of the day」 財務省 ４月23日投開票の衆参５補欠選挙を、辛勝ながらも、自民党の４勝１敗で勝ち越した岸田文雄首相（自民党総裁）。４月下旬にかけて行われた報道各社の世論調査でも、軒並み支持率が上昇。昨年夏以来となる５割台を回復した調査結果もあり、政権内にはひとまず安堵の空気が広がる。一方、霞が関の夏の人事を占う上では、余勢を駆って早期衆院解散に踏み切るか否かも注目される。 財務省人事をめぐっては、昨年６月に就任した茶谷栄治次官（86年入省）の去就が注目される。退任となれば、新川浩嗣主計局長（87年）の昇格が確実視されるが、省内では茶谷次官の続投説がくすぶっている。 88年入省の阪田渉国税庁長官は次官レースからは遠ざかったと見られ、岸田首相秘書官を務める宇波弘貴氏ら89年入省組につなぐことを想定すると、茶谷氏、また新川氏のいずれかが２年間、次官を務めるという計算が成り立つ。 宇波氏は厚労関係に厚い人脈を持っていて、岸田首相肝いりの「異次元の少子化対策」の取りまとめへ辣腕を振るっている。６月の経済財政運営の基本指針「骨太の方針」で少子化対策の大枠を示したことをもってお役御免となり、財務省へと戻るのであれば、官房長から主計局長、そして次官という王道が目に浮かぶが、果たして官邸が手放すかどうか──。 主税局長３年目の住澤整主税局長（88年）は現在３年目で国税庁長官への昇格という見方も出る。その場合、現在官房長の青木孝徳氏が有力な後任候補という見方もある。なお、神田眞人財務官（87年）の続投は確実と見られる。 時計の針を約１年前に戻すと、昨年６月の骨太の方針をめぐり自民党の積極財政派と財政健全派が対立する中、党内の意思決定は岸田首相と安倍晋三元首相を両軸とした「楕円の理論」で決まるという見方が大勢となった。だが、安倍氏が凶弾に倒れて、楕円の権力構造は崩壊。参院選勝利で「黄金の３年」を手に入れたはずの岸田首相も、次々と露見する旧統一教会と政治の「ただならぬ関係」などをめぐって国民の厳しい批判にさらされ、不安定な政策運営を余儀なくされた。 こうした中、昨年は財務省も２０２３年度予算編成の最大の焦点となった「防衛財源」の確保をめぐる議論を軟着陸させることにリソースを割かざるを得なかった面がある。だが、政権運営が安定化に向かえば、茶谷氏が２年目に突入するにせよ、新川次官が誕生するにせよ、徐々に財務省カラーを出していく可能性がある。 経済産業省 ７月に就任から２年となる多田明弘次官（86年入省）は勇退するとの見方が広がっており、後任人事が最大の焦点となる。ロシアのウクライナ侵攻以降、エネルギーの安定供給に奔走し、既存原発の運転期間延長など、岸田文雄政権が踏み切ったエネルギー政策の方針転換も支えた保坂伸資源エネルギー庁長官（87年）の起用が有力視される。また、かねてより次官候補と目され、昨夏より、グリーントランスフォーメーション（ＧＸ）基本計画のまとめ役として存在感を示した飯田祐二経済産業政策局長（88年）を推す声もある。 保坂氏は７月で就任３年となる。頻繁に官邸に出入りし、議員回りも積極的で「功績は誰もが認める。88年組は次の次でもチャンスがあり、保坂氏を処遇しても不思議はない」（関係者）。エネルギー政策は引き続き安定的なかじ取りが必要で、後任には経験者を充てる公算が大きい。いずれも資源エネルギー庁次長の経験がある飯田氏や、山下隆一製造産業局長（89年）が適任と見られる。 平井裕秀経済産業審議官（87年）は続投の可能性がある一方、次官交代に伴い退職するとの見方も強い。後任として複数の関係者が予想するのは、米国をはじめとした諸外国との交渉にたけた松尾剛彦通商政策局長（88年）の起用だ。 飯田氏がポストを動いた場合の経済産業政策局長には、藤木俊光官房長（88年）や村瀬佳史内閣府政策統括官（90年）が就くとの観測がある。別の関係者は「両氏ともバランス型」と評し、藤木氏は経済産業審議官、村瀬氏は製造産業局長など、複数ポストで名前が取り沙汰されている。 通商政策局長には、田村暁彦内閣官房内閣審議官（89年）に加えて、90年組複数人が候補に挙がる。この他、野原諭商務情報政策局長（91年）が交代する場合、後任には三浦章豪内閣官房新しい資本主義実現本部事務局次長（92年）や松山泰浩資源エネルギー庁電力・ガス事業部長（92年）らの起用も考えられている。先の関係者は、「92年入省組の層が厚く、今回、93年組が局長に昇任する可能性は高くない」とした。 今年の２月に差別発言で首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏（91年）については、地方の経済産業局長や経済産業研究所（ＲＩＥＴＩ）などのポストで嵐が過ぎるのを待つ、という見方が大勢を占めた。

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