豊田有恒 – 公益産業研究調査会／koken

『公研』2023年2月号「めいんすとりいと」 大方の日本人は、戦争とは軍備があるから起こるというふうに、いわば洗脳されているが、間違いである。戦争とは、双方の軍事力に著しい差が生じるか、あるいは一方がそう信じた場合に、発生するのである。歴史を見れば、明らかである。 １５８０年、海洋国家ポルトガルは、王の死去に伴い、後継者の選出に手間取り、しかも海外に人材を展開していたため、国内が手薄になっていた。隣国スぺインのフェリペ二世は、大軍を発してポルトガルを占領し、以後、60年にわたって支配することになる。東アジアにいたポルトガル人は、宿敵スペインの魔の手が及ばない日本へ、みな逃げこんできた。ポルトガル語に由来する外来語が、今も残っているのは、それだけ多くのポルトガル人が、日本にいたからだ。 第二次大戦も、同様である。無謀な戦争という後知恵のような分析が定説だが、太平洋方面の軍事力は、質量ともに日本がアメリカを凌駕していた。しかも、アメリカ側は、日本の軍事力を過小評価していたから、なんの情報もなかった。中国戦線から、ゼロ戦の情報が届いても、そんな戦闘機が日本にあるはずがないとして、握りつぶされた。 真珠湾では、メッサーシュミット戦闘機の目撃例が、たくさん報告されている。ジャップごときにやられるはずがない、ドイツ野郎（クラウト）が手を貸したにちがいないと思い込み、幻のドイツ機を見たと錯覚したのである。 日本は、じゅうぶん勝算があったから開戦に踏み切ったのである。唯一、日本が劣っていた兵器は、急降下爆撃機だけである。99艦爆は、水平爆撃では優れていたものの、軽量化のため機体強度に問題があり、〈〉という飛行をすると、空中分解する危険があった。 緒戦では日本が優勢だった。なぜ負けたのか。『和』の日本は、戦争が下手で、軍国主義に徹しきれなかったからだ。ハワイでは圧勝したように見えたが、非戦闘員を殺傷する危険があるとして、港湾施設、貯油施設を攻撃しなかった。アメリカは、艦船を修理し、燃料を補給し、ただちに反攻に移ることができた。 ミッドウエーでも、旧式のバッファロー戦闘機はもちろん、Ｆ-４Ｆ戦闘機、デバステーター雷撃機など、名機ゼロ戦によって蝿のように叩き落され、九分九厘、日本が勝っていた。しかし、唯一日本機より優れていたＳＢＤドーントレス急降下爆撃機が〈〉戦法を生かし、僅かなチャンスをものにして、日本の四空母を葬り去った。以後、日本の十倍ともいわれたアメリカの工業力が、軍需生産にフル稼働するようになると、敗北は決定的になった。 ウクライナ侵略も、ロシアが、ウクライナの軍事力、国民の愛国心を過小評価し、勝てると踏んだから起こった。 現在、日本の周辺では、ロシア、中國、北朝鮮、韓国などと、日本との軍事力の差が、大きく開きはじめている。かつて無敵だったＦ-15戦闘機も、今や老朽化している。どの国が、その気になっても、おかしくない危険な状態である。日本人が、空想的な平和主義にひたっていると、まもなく国が滅びる。 作家・島根県立大学名誉教授

空想的な平和主義が国を亡ぼす 【豊田有恒】

空想的な平和主義が国を亡ぼす【豊田有恒】