長谷川庄司

『公研』2023年4月号「issues of the day」 ２０２３年２月６日の現地時間早朝午前４時17分にトルコ南東部のシリアとの国境付近を震源とするＭ7.8の地震、さらに同日午後１時24分にはＭ7.5の誘発地震が発生した。 今回の地震で犠牲になられた方々、ご家族を失った方々、さらに療養生活を送られている方々に対し、心よりお悔やみ申し上げます。 私は２０１３年から３年間、独立行政法人 国際協力機構（ＪＩＣＡ）より「災害リスク管理」専門家として、トルコ国内務省災害緊急事態管理庁（トルコ語名：ＡＦＡＤ*１） に派遣され、16年以降も複数回にわたりトルコ国に出張し、防災業務に従事してきました。 地震発生の２月６日以降、世界各地から救助・救援チームや医療チームの派遣や支援物資の搬送が続いており、さらに被災の現状調査のために世界中から防災研究者が被災地に駆け付けているようです。被害に関する建築施工不良等のネガティブな報道の審議は今後の調査に委ね、ここでは「仙台防災枠組（２０１５-２０３０）」（２０１５年仙台市で開催された第３回国連防災世界会議で国連加盟国により採択された２０３０年までの国際的な防災指針。）の中の四つの優先行動の一つである「より良い復興（Build Back Better）」のために、今後何を実施していくべきか、私が期待していることを述べる。 今後の復旧･復興に向けて ＮＨＫによると（２０２３年３月４日付）、トルコ政府は46万８０００世帯分の恒久公営住宅を今年中に建設し、11月より入居を始める計画とのことです。 トルコ国政府が恒久公営住宅建設を急ぐことは理解できるが、被災地外に無秩序にスプロール現象的（ 都市から郊外への計画的なつながりなどを意識しないまま、無秩序に市街地開発が進む現象）に恒久公営住宅が建設され、集団移転が急かされないように注意が必要と考える。そのためには、トルコ政府が「グランドデザイン」的（総合的･長期的視点で都市の将来像を掲げて、これを実現させると都市づくりの方針に基づいた取組施策）な指針を示し、各自治体がこのグランドデザインに沿った復旧・復興計画を策定し、被災者の意向を反映した復興をめざしてもらいたい。 過去に大きな震災を幾度となく経験してきた日本には、そのノウハウをトルコ国と共有できるはずで、今後のトルコ国との協働を期待している。 既存の緊急対応計画の検証と改善 ＡＦＡＤは、災害直後の災害緊急対応にはトルコ国緊急対応計画（ＴＡＭＰ*２） に沿って活動することになっている。ＴＡＭＰでは、緊急時に実施する活動（例えば「捜索・救助」「ロジスティック」「瓦礫処理」等）毎に、担当機関やＮＧＯ等の複数の組織をチーム分け（サービスグループ）し、それぞれのチームに緊急対応活動の責任機関として役割分担を決めている。トルコ国内にある81県も同様に、それぞれの県が独自の県ＴＡＭＰを有している。 緊急対応業務が一段落したら、これらのＴＡＭＰが計画通りに上手く運んだ事項、変更・追加が必要な業務等を検証し、改善されることを期待する。 既存の災害リスク軽減計画の検証と改善 ＴＡＭＰと同様に、トルコ国には国レベルの災害リスク軽減計画（ＴＡＲＡＰ*３） 、さらに全81県において県災害リスク軽減計画（ＩＲＡＰ*４） が策定されている。 上述ＴＡＭＰと同様に、これら軽減計画を検証し、リスクを軽減する取組が適切に検討・実施されていたかを確認し、改定後の軽減計画に基づきリスク削減の取組が進められることを期待する。 １９９９年のコジャエリ地震を大きく超えるような大災害となったが、二度と繰り返さないために、トルコ国だけでなく、我々日本も含めた支援を行う側も、「誰も取り残さない（No One Left Behind）」のために、知恵を出し合って、「より良い復興（Build Back Better）」に向け、強靭な街づくり・国づくりを進める制度改善を含めた、トルコの復興に結集してもらいたい。 長谷川 庄司 （注） ＊１ 英語名：Disaster and Emergency Management Presidency, トルコ語名：Afet ve Acil Durum Yönetimi Başkanlığı （ＡＦＡＤ）私が赴任した当時は首相府内の下部組織だった。 ＊２ 英語：Turkey Disaster Response Plan, トルコ語：Türkiye Afet Müdahale Planı ＊３ 英語：Turkey Disaster Risk Reduction Plan,トルコ語：Türkiye Afet Risk Azaltma Planı ＊４ 英語：Provincial Disaster Risk Reduction Plan,トルコ語：İl Afet Risk Azaltma Planı

トルコ･シリアでの地震災害からの復興に向けて【長谷川 庄司】

トルコ･シリアでの地震災害からの復興に向けて【長谷川　庄司】