難波昭信 – 公益産業研究調査会／koken

『公研』2023年12月号「interview」※肩書は掲載当時のものです 影響が出ているのは中国向けに輸出していた業者 ──福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出が始まりました。豊洲市場での取引にはどのような変化が見られますか？ 早山 処理水の放出後も特別に大きな変化は見られません。卸先の飲食店や寿司店からの拒否反応もなくて、豊洲市場での国内向けに取引されている水産物には価格面でも影響は出ていません。いま一番影響が出ているのは、やはり日本産の海産物の輸入を全面的に禁止した中国に向けて輸出していた業者ですね。中国の近隣諸国でもいくらか影響が出ていると聞いています。 ──中国にはどのような水産物が輸出されていたのですか？ 難波 中国には主に香港、マカオなどを経由してウニ、ホタテ、キンメ、キンキなどの高級魚が輸出されていますね。香港の日本食レストランに日本産の水産物が入っていないので、その分の影響が大きく出ています。 早山 中国の人は、色の赤い魚が好きで、キンメやキンキはとても好まれていました。ただし中国向けの輸出がストップしたからと言って、日本国内の相場は極端に下がってはいないんですよ。ウニは元々、需要が高いからね。中国向けの輸出が減ったくらいでは、大きな影響にはつながらない。 ──ホタテ貝はどうですか。在庫が余っていることが広く報道されています。 難波 主に北海道産の冷凍に加工されたホタテ貝が中国向けに輸出されていて、そこは止まってしまっているので影響が出ています。逆に生のホタテ貝は今かなりの高値が付いています。宮城産のホタテは漁期が終了したので、今は岩手産や青森産にシフトしていますが、物が足りていない状況になっています。 早山 ホタテは殻付きのものを冷凍にして、中国に輸出しています。それが中国で加工されて、さらに他国に輸出されています。中国に輸出されたものがすべて中国で消費されているわけではないんです。 私のところは、水産仲卸でいろいろなお客さんを相手に商売しているので影響はほとんどありませんが、中国向けの輸出に依存している企業は厳しいだろうと思います。ただ、多くの企業は中国だけを相手にしているわけではないから、もちろん一部には影響が出ているでしょうが、ものすごい大打撃を受けているわけではないんですよ。このあたりは、事業者によってずいぶん状況が違うだろうと思います。 吉橋 私のところは香港向けに結構、輸出していたので影響が出ました。ただ、具体的にどのくらいの影響が出ているのかを示すのは難しいところがあります。例えば、輸出に関して売上が半分になってしまったとしても、他の部分で売上が出ていたら、全体としては儲かっているように見えるわけです。それは、頑張って国内での販売を増やすように営業努力をしている成果でもある。 けれども、そこを考慮せずに「昨年より売上は上がっている。会社としては減っていないですよね」と見なされてしまうのは、違うのではないかと思っています。私たちとしては、中国への輸出禁止措置によって影響が出た部分をきちんと評価した上での補償をしてほしいですね。 積極的に食べて応援しようという気が広がっている ──日本国民の間に、国内産の海産物を積極的に食べて応援しようといったムードも醸成されました。心配された風評被害もあまり聞きません。 難波 そうですね。処理水についてはきちんと理解しているのだと思います。こちらが呼びかけなくとも、福島県産のものを購買して応援しようという気運はどんどん広がっている感じがしますね。 早山 もともと三陸・常磐ものが流通しているエリアは、関東から西は名古屋ぐらいまでに限られていました。けれども、最近では西日本からの問い合わせが増えてきました。心配するのではなくて、むしろ積極的に使って応援したいという前向きな声を聞くことが多いですね。 吉橋 私は福島の水産業者に知り合いが多いので、直接現地の小名浜漁港に行って彼らから話を聞いていますし、検査の様子も見たりしています。検査は徹底していますから、他の地域よりもむしろ安心だとも言えます。現地の方々とそうした付き合いがありますから、個人的にも応援したいという気持ちは強いですね。うちのお客さんにも、「安心だし、美味しい」とアピールしています。 ──三陸・常磐もので高値が付くお魚は？ 難波 今年の夏はアナゴに高値が付きましたね。脂乗りがすごく良かった。それからヒラメも変わらず需要が多いですね。 早山 海底近くにいる魚を「底物」と呼んでいるのだけど、そちらのほうが値段は高くなっていますね。底物のほうが警戒されそうな気もしますが、価格にはまったく影響が出ていない。むしろ生産地で鮮度を保つ作業をきちんとされている魚のほうが市場価値は上がります。 ──東日本大震災後に福島の漁業者自体が廃業された方が多いのは事実としてあります。ただ、高値で取引されているのであれば、漁に出ようという人が増えてくることも期待したいところですが。 早山 やはり震災前までの漁獲量までは復活していません。ただ価格的には完全に復活しているし、むしろ高くなっているものもある。だから、漁に出て市場に出荷してくれれば、我々はきちんと評価します。 ここは難しいですよね。漁業従事者は高齢化していて後継者が不足しているという問題が根底にはあります。一方で、漁業補償もあるわけですから、漁は引退して次の展開を考えるという人もいるだろうし、そこは我々があまり関わる問題ではない。 難波 たしかに福島県の水産業はたいへんだったと思います。事故後は漁に出られない期間が長く続きましたし、その後試験操業、そして本格操業となった今でも放射性物質のスクリーニング検査を行いながら出荷していますからね。ただし国の定めた基準値以上にさらに厳しい自主基準を設けながら検査して出荷しているので、安心ではあります。 吉橋 私の見た感じでは、若い人が漁に挑戦しているのが増えてきている印象はありますね。 早山 若い人からすれば、市場で確実に評価されているということは大きいんですよ。質の良い魚を選ぶのが仲卸の仕事です。やはり、どこの海で獲れたものであっても、公平・公正に取り扱うことが大事です。我々との信頼関係がきちんと構築されていけば、どんどん漁に出て出荷しようという気持ちになってもらえると思う。高齢者はさすがに疲れてしまっているだろうけど、そういう若い人が増えてくるのは、我々にとってもすごく嬉しいことですけどね。 サンマは最早、大衆魚ではない ──今回の件は、日本の水産業や魚食の現状を知る機会にもなっています。水産業の近年の特徴や変化についてお聞かせくだ さい。 早山 まずは、一般の消費者が気軽に食べられるような価格帯の魚、いわゆる大衆魚の漁獲量がだいぶ減っていることが挙げられますね。アジやイワシなどの比較的安価な価格で買えた魚種が、今はすごく値段が上がっています。 それから、街中の魚屋さんの軒数自体がずいぶん減っていることも大きな特徴ですね。一般のお客さんは、街の魚屋さんではなくてスーパーで魚を買うことが一般的になりました。スーパーでは扱われる魚の種類がある程度限定されてくるし、季節感もあまりない。切り身の状態で販売されることが多いから、その魚の元の姿形を見る機会も減っていますよね。 そういう意味では、一般の消費者が季節の変化を感じながら、いろいろな種類の魚を実際に見て購入するような環境がどんどん変わっていることは間違いないですね。 ──大衆魚も値段が上がっている一番の原因は何だと思いますか？ 早山 海洋環境の変化のためか、やはり漁獲量が少なくなっていることが原因ですね。サンマなどは典型的な例だろうし。 難波 競争相手が国内だけではなくなってきたこともありますね。世界中から「日本の魚は美味しい」と評価されていますから、浜に揚がった魚がそのまま海外へ輸出される例も増えてきました。 ──サンマの価格は毎年話題になっています。最近では高値が続いていますが、今年の動向はいかがですか？ 吉橋 いや、高いですね。半端じゃないですよ。 早山 昔なら誰も相手にしなかったようなちっちゃいサンマにも高値が付いている。 吉橋 そうです。10年前くらいまでは、一匹２００グラムに満たないサンマは、市場ではバカにされるような対象だったんです。 早山 それが今では２００グラムないんだからね。 吉橋 １５０グラムがやっとですもんね。 ──しかし、なぜここまで高いのでしょうか？ 早山 要するに海洋環境の変化で、日本の近海までサンマが下りて来ないんです。海がいつまでも暖かいから北のほうに留まっている。日本船が獲りに行っても、すごく時間をかけて港まで持ってくることになるから、燃料費も嵩むし鮮度も悪くなってしまう。それに中国などに相当獲られてしまっています。だから我々にしても、サンマは大衆魚だという感覚は、まったくなくなっていますね。 メゴチとマゴチ ──もうサンマは高級魚であって、庶民の秋の楽しみではなくなってしまったわけですね。 早山 ただ魚って何らかの原因で急に大漁になったり、逆にまったく獲れなくなったりすることがあります。イワシなどもそういう周期があって、漁獲量に増減がある。 難波 20年前にイワシが獲れない時期が何年か続いたことがありました。 早山 そうかと思ったら、ドカッと獲れるときもあるわけ。今年の２月には新潟県のほうで数万匹のイワシが浜に打ち上げられたことがニュースになっていたけど、そういうこともある。 吉橋 ここ10年ぐらいは、サンマを獲りに行った船が獲れなくて、イワシを獲って帰ってくることも増えました。 難波 昔は秋口にそんなことが起きるのは絶対になかったんですよ。イワシは北海道の東側が北限だと言われていましたが、今はもっと北のほうまで上がって行っています。 ──読者から「コチがあまり見かけなくなったのはなぜか聞いてほしい」という質問のリクエストがありました。水揚げが減っているのですか？ 早山 マゴチじゃなくてメゴチですか？ ──違いがあるのですか？ 早山 メゴチは小さい魚で天ぷらにして食べる。マゴチはもう少し大きくて刺身にして食べると美味しい。マゴチはおろすのも難しいから、寿司屋や料理屋さんで使われることが多いですね。家庭で気軽に食べる魚ではないですね。 吉橋 骨が多くて、家庭で調理するのは難しい。 難波 釣り人が好んで狙う魚でもありますね。 早山 マゴチの餌って、メゴチなんだよね。メゴチでマゴチを釣る。名前は似ているけど、この二つの魚はまったく違う種類です。マゴチは市場では割とよく見かけますね。 難波 獲れなくなったのはメゴチのほうですね。それこそ福島や宮城ではいっぱい揚がっていたのが、今は極端に量が減りました。メゴチも天ぷらのタネとしては比較的に安価だったのが、今はもうかなり高級になっていますね。 吉橋 同じ天ぷらにすると美味しいメヒカリもずいぶん減っています。 ──最近では今まで穫れなかった魚がそれまでとは違った海域で揚がるようになったという話をよく聞きますね。 吉橋 いろいろな例がありますが、ブリは北海道が一番揚がっていますね。 難波 それも10キロ、12キロぐらいのいいサイズのブリが揚がっています。本来なら、正月にかけて南下していくのが通常でした。氷見や佐渡あたりまで来たときに、丸々としたいいサイズになるのだけど、今は下りる前の北海道でもう大きいブリが獲れるようになっている。だから、時期も早くなっている。 早川 それからトラフグもどんどん北上しているね。福島沖でも獲れるようになっていて、最近では天然フグを自分たちの名産品にしようという動きも出てきています。 難波 35年ぐらい前だからちょうど平成元年ぐらいに、今まで穫れなかった三河湾のあたりで天然のトラフグが揚がるようになったんですよ。それで地元は騒ぎになっていましたが、それが今では福島あたりでも獲れるようになっています。魚が獲れる上限が上がってきているのは、感じていますね。 スルメイカが獲れなくなった ──逆にそれまで獲れていたのが、獲れなくなったところもありますよね。 難波 昔は東シナが天然フグの主たる漁場だったんだけど、東シナではあまり揚がらなくなっています。やっぱり、海水温が高くなっている影響が出ていますね。 吉橋 スルメイカも獲れなくなりました。10年くらい前まではスーパーで特売するときは、一匹１００円くらいで売られていたこともあったけど、今は５００円ですからね。 早山 スルメイカは箱単位で取引されるのだけど、今は20匹入っていて一箱１万円もするようになった。居酒屋でスルメイカを丸ごと一本刺身にしたり、姿焼きにしたりするなんて夢の話になってしまっている。 スルメイカに関しては、日本海で中国船、北朝鮮船、韓国船にかなり獲られてしまっています。日本海側の漁協の人たちは「何とかしてほしい」と政府にお願いしているのだけどね。 吉橋 網でごっそりですもんね。 早山 そうそう。日本のイカ釣りは、船に電灯をいっぱい付けて、光に集まってきたイカを獲っていたのだけど、海外の船は何でもいいから根こそぎ獲ってしまっています。 値段の割に美味しい魚を見つけるのがおもしろい ──回転寿司の普及で安価なお寿司が社会に根付きましたが、そのモデルを今後も維持できるかどうかは難しいところかもしれません。 吉橋 回転寿司が安いのは、それに見合ったものを使っていたからです。ただ、今は値上げでそれなりの値段になっていますよね。回転寿司の普及で、お魚の種類が広く知られるようになるなど、逆に宣伝してもらえているところもあります。ただ、本当に美味しい魚には、それ相当の値段が付くのは当然ですよね。魚があぶれていることもあるから、値段の割には美味しい魚を見つけるのはおもしろいし、そういう魚を宣伝していくことは大事かなと思っていますね。 私から一つお願いしたいのが、報道の受け止め方なんですよ。例えば、「カツオが大豊漁！」といったニュースが出ても、その１週間後には６００円だったものが、１２００円になっていることはざらにあるんです。いっぱい揚がったと言っても、流通できるような代物でなかったり、相場が変わっていたりします。だから、報道を鵜呑みにしている方が「豊漁で安いと聞いていたのに話が違う！」ということになりがちなんです。なので、価格を大々的に報道したりするのは、勘弁してほしいと思っています。 早山 浜の価格は、全体量の価格なんですね。そのなかから、商品として価値のあるものを選ぶと当然高くなるじゃないですか。水揚げしたときに全体でキロ５００円だったものが、実際に市場に出てきて我々が商売で扱うときには、３倍にも４倍にもなるんです。 吉橋 水揚げされた魚のなかには、肥料や餌にしかならないものも交ざっていますからね。 三陸・常磐ものをＰＲする「夢市楽座」を開設 ──魚が高くなっていると言っても、日本人はやはり魚をよく食べる国民だと思います。魚食をめぐる変化についてはどう見ていらっしゃいますか？ 難波 皆さん魚が美味しいことも、すごく身体に良いことも十分わかっています。だから魚食離れが加速するとは思わないけど、食生活の変化は大きいですよね。我々が子どもの頃は、朝食はご飯に、魚の干物、お味噌汁というのが定番だったけど、今はパン食を始めとして選択肢がたくさんありますからね。 それに魚料理ってやはり手間がかかりますからね。女性も社会に出て働くことが当たり前の時代になっているから、家事の時間を短くしようとすると、魚は扱いが難しいと受け止められがちなのかもしれません。 吉橋 魚は骨や頭がゴミとして出ますから、そこを嫌う人も多いですよね。においもあるし。先ほども話に出ましたが、街の魚屋さんが少なくなった影響は大きいと思っています。魚屋さんでは季節の旬の魚や調理法を対面で聞くことができたけど、今のスーパーではそういう機会がありませんからね。切り身に加工されてパック詰めで陳列されているから、子どもたちは元の魚の姿を知らなかったりする。 早山 魚は加工されたほうがロスも少ないだろうし、賞味期限が短いから売る時に楽なのはわかるけどね。今はアジをそのまま一匹渡されても、どうしていいかわからない人が多いだろうね。 吉橋 ただ、自分で魚をさばきたいという凝り性な人は、少しずつ増えてきている印象はあります。 ──最近ではYouTubeの動画でも魚のさばき方を教えるものがあります。見ていると自分でもやってみたくなります。 吉橋 魚をさばくのは、本当に楽しいですよ。でも「知らない」とか「できない」というところが優先してしまっている方が多いですね。そんなこともあって魚食を縁遠く感じている人たちはいますから、魚食を普及させることは我々の使命だと思っています。 ──豊洲市場では魚食の普及に向けてどのような取り組みを行っていますか？ 早山 築地の時代からいろいろな取り組みを行っています。普及活動は、産地と消費地ではやり方がずいぶん違います。産地だったら、学校給食で実際に獲れたものを子どもたちに食べてもらうのが一番効果的だよね。でも、消費地ではそれは難しいから、小学校で出前授業としてお魚教室をやったりしています。最近では、豊洲の「江東湾岸まつり」で我々がブースを出して魚を食べてもらうイベントもやっています。 難波 今年の７月から令和６年２月末（予定）にかけて、豊洲市場では、豊洲市場内で三陸・常磐ものをＰＲする「夢市楽座」を設けています。市場の活性化と三陸・常磐地域の支援を目的に始めました。国内最大の豊洲市場で企画する意味は大きいと思っています。 お陰様で大盛況で、多い日は１日約２００人が来場していて、外国人のお客さんもたくさん見えています。プロの目利きが選んだ質の高い三陸・常盤ものを食べてもらいたいですね。スペースは小さいですが、名前の通り夢は大きく描いています。 「食べず嫌い」になってほしくない 吉橋 私は、毎年夏休みに開催されている「こどもいちば教室」に毎回参加しています。アジやイワシ、ホタテを自分たちでさばいてもらって実際に食べてもらっています。子どもたちは「自分で切った魚ってこんなに美味しいの！」とみんな感動して帰りますね。 ──子どもたちに実際に体験してもらうのは、効果的ですね。 早山 それはその通りなんだけど、東京の膨大な人口に比べたら微々たる数ですよね。だから、私たちからすれば、学校の授業でも魚食のことを取り上げてほしいと思っています。よく今の子どもたちは「食べず嫌い」になっていると聞くけど、そうなってほしくないんですよ。 私が小学生の頃の話ですが、夏休みに入る前に担任の先生が子どもたちに「おじいちゃん、おばあちゃんの田舎に行ったときに、東京ではあまり食べたことのないものが出てきたらみんなどう反応するの？」と聞いてきたことがありました。一つの反応は、食べたことがないから食べない。もう一つは、食べたことがないから食べたいでした。 やっぱり子どもだから、反応が分かれるんだよね。でも、そういうふうに問いかけること自体がとても大事だと思うんです。我々としては、もちろん「食べたことがないから食べたい」というのが正解で、そっちのほうへ好奇心を引っ張り出すような授業が学校で行われたらいいと思っている。 日本の食料自給率はだいたい38％くらいだとされています（農林水産省調べ、カロリーベース）。でも、魚の自給率は今のところ58％あってまだ高い水準を維持しています。子どもたちにはそういう事実も知ってもらって、日本の近海で獲れた魚は日本人がもっと積極的に食べよう、ということを学校の先生が教えてくれたら嬉しいなと思っています。 マグロはすごく奥が深い ──最後にお気に入りのお魚についてお聞かせください。 早山 俺はマグロ屋だからマグロだよね（笑）。マグロはすごく奥が深い。種類も多いし、獲れる時期や獲れた場所によってずいぶん違います。個体差もすごくあるから、品質を見極めるのは難しいのだけど、だからこそ奥が深くておもしろい。だから、マグロ屋はマグロだけでも商売ができるようなところがあるね。 難波 やっぱりアナゴですね。自分が扱っている魚には愛着がありますね。アナゴは煮ても焼いても揚げても美味しいからね。 吉橋 僕は貝類ですね。生まれ育ったのが浦安だから、特にアオヤギですね。今は漁業権を放棄してしまったからほとんど漁は行われていないけど、僕が小さい頃は地場産業として、その辺でアオヤギを剥いていました。小さい時はそれをよく手伝っていて、食べていましたね。 早山 今アオヤギも全然獲れなくなっちゃった。昔は代表的な大衆貝でした。安くて、でも本当に美味しかった。今では高級貝になっちゃったもんね。 吉橋 地元ではバカガイなんて言われていました。 早山 アオヤギは馴染みのある商材だったね。おばちゃんたちがもうジャカジャカみんな舌切りにしていました。舌切りっていうのは、貝紐の部分は取ってしまうことを言うんです。 吉橋 手間がかかるから、舌切りにして出荷していたんです。 ──ありがとうございました。

魚のプロフェッショナルが語る日本の水産業と 魚食文化の「今」 【早山豊】【難波昭信】【吉橋善伸】

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